金融経済イニシアティブ

地域金融機関は預貯金の縮小に備えよ

2013.08.01

年金の流入鈍化、相続対象預貯金の地域間シフトがはじまる

2000年代なかば以降、金融機関の預貯金は、どの業態もおしなべて年率2%前後の伸びを維持してきた。貸出が業態間でかなりのばらつきを示したのに比べ、大きなちがいだ。これには、地方経済が低迷する一方で、年金のコンスタントな流入が地域金融機関の預貯金を下支えしてきたことが大きい。

しかし、これからの人口動態を踏まえると、地域金融機関の預貯金をめぐる環境は大きく変わる。

第1に、年金の流入が伸び率鈍化から減少に転じる。わが国の高齢者数は2040年すぎにピークアウトする見込みにあるが、地方の多くではこれに先んじて減少がはじまる。国立社会保障・人口問題研究所の推計をもとにすると、2020年代に47都道府県中25道県で65歳以上人口が減少に転じる。この結果、年金流入による預貯金の下支え寄与も減衰していくことになる(参考1)。

 

参考1:65歳以上人口の推移

拡大

 

第2に、相続の増加に伴い、地域間の預貯金シフトが生じる。高齢化にひきつづくのは、他界者の増加であり、相続の発生である。地方で老親が生活する一方、相続人たる子供世代が都会で暮らす例は多い。この場合、地域金融機関は、相続発生のつど、対象預貯金が都市部に流出する可能性にさらされることになる。

その規模について大胆な仮定をおき独自に試算してみると、2020年にかけて、47都道府県中35道府県で相続対象預貯金の一部が県外に流出するとの試算結果となった。うち23県では、県外流出の規模が相続対象の2割超に達する(最大は3割台)。一方、首都圏4都県や愛知、大阪などには、預貯金が集中して流れ込んでくる。注意しなければならないのは、こうした地域間シフトは、県外だけでなく、同一県内でも地方・大都市間で生じることである(参考2)。

 

参考2:相続対象預貯金が県外流出入する割合(試算)

1.試算結果:相続対象預貯金が県外流出入する割合

拡大

2.試算の方法

(1)国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来人口推計(平成25年3月推計)」を基に、封鎖人口ベース*での将来推計から他界者数を推計。具体的には、<i>2010年時点の80歳以上人口と2020年時点の90歳以上の人口、および<ii>2010年時点の70歳以上人口と2030年時点の90歳以上の人口をそれぞれ比較し、減少数を他界者数と推定。そのうえで、全国に占める各都道府県のシェアを求める(x)。
 * 出生と死亡だけの要因で人口が変化すると仮定した推計結果(すなわち人口移動の影響を含まない)。
(2)相続を受ける者は年齢50、60歳代と想定し、2020年および2030年の将来人口推計に基づき同年齢の都道府県別人口シェアを求める(y)。
(3)相続対象預貯金のうち同一県にとどまる割合をy/xと推定。この結果、県外流出入割合は1-y/xとなる。

3.試算に関する留意事項

(1)この試算では、高齢者の平均預貯金残高が各都道府県で同一と想定していることになる。各都道府県の相続対象平均預貯金残高にばらつきがあれば、実際の流出入割合は試算値からかい離する。
(2)本試算は県内外の流出入の総和をゼロとしている。すなわち、相続税支払いによる相続対象預貯金の減少は勘案していない。

 

2020年代からの預貯金縮小の可能性に備えよ――見守りから墓守りまで

上記はあくまで相続対象預貯金のなかで県外に流出入する割合である。実際に相続の対象となりうる預貯金は、今後10年間を展望すれば、個人預貯金全体の1割台であろう。そうであれば、相続に伴う県外流出は、多くても個人預貯金全体の数%前後となる。従来の預貯金の伸びを維持できれば、十分にカバーできる規模といえる。ただし、この間に年金流入の伸びが鈍化してくることをふまえると、預貯金残高の維持に苦労する地域がでてくる可能性をなしとしない。

さらに2020年代に入ると、事態は一段と進行する。年金の流入が各地で減少に転じてくる。一方、相続に伴う県外流出入は、2010年代とおおむね同一ペースで続く。この結果、地域金融機関のなかに、預貯金の縮小に直面する先が増えてくる可能性は小さくない。

こうした事態に地域金融機関はどう対応していくか。県外に流出しようとする預貯金を引きとどめることは容易ではないが、手をこまぬいているわけにはいかない。王道は、もちろん地域経済の活性化による県内所得の増加である。ただ、それだけでなく、インターネットバンキングによる県外預金の捕捉や「ふるさと預貯金」の魅力を高める手立てを講じることも重要になる。都会に住む子供世代の心配が、老親の見守りであり、その後の墓の維持・管理にあるとすれば、そうしたニーズと金融サービスをつなぐ発想も必要になるかもしれない。いわば、「見守りから墓守りまで」である。さらに、他金融機関・他業態との提携等で預貯金縮小に対抗していくことも考えられよう。

残された時間は10年程度とみられる。地域金融機関には、多岐にわたるチャレンジが期待されている。

以 上

 

<参考文献>
野村資本市場研究所:資本市場クォータリー 2008年春号 宮本佐知子「加速する相続に伴う個人金融資産の地域間移転 -2015年までの地域別個人金融資産の展望-」

 

【関連コラム】
地方銀行の預金はなぜ鈍ってきたのか?~~タンス預金か、人口動態の変化か(2016.08.01)銀行の基礎収益はなぜ悪化を続けるのか ~~量的緩和、ゼロ金利制約と利鞘(2014.04.01) 異次元緩和が終われば、民間預金は減少する? ~~「出口」戦略の高い、高いハードル(2014.05.01) 量的・質的金融緩和(QQE)下でマネーはどこから生まれ、どこへ消えたか(2015.04.01)団塊世代はどう動いたか、意外に低い退職後の「里帰り率」 ~~創成会議の地方移住論をどうみるか(2015.07.01)  

・相続で預貯金はどう動くか~~目立つ東北、山陰、四国からの流出、沖縄、東京への流入(2018.08.22)