札幌、福岡はなぜ人口流入超トップ3なのか ~高齢化、サービス産業の隆盛が生む人口集積
2014.02.03加速する一部地方大都市への人口流入
高齢化の進展に伴い、一部地方大都市への人口流入が加速している。人口移動報告に基づき21大都市(東京都特別区部<23区>および政令指定都市)の転出入状況をみてみよう。
首都圏6都市、大阪市、名古屋市への人口移動は、2010年代に入り流入ペースが幾分鈍化した。対照的に、地方大都市の転入超過数は過去最高を記録した(参考1)。
郊外から地方大都市に、病院へのアクセスの便利さや雪かきの負担軽減を求めて、移り住んでくる人々がいる。首都圏等から地方大都市に、故郷への近さと生活の便利さの両者を求めて、Jターンしてくる人々がいる。これらの人々の結節点として、一部の地方大都市はますます魅力ある街となっている。
参考1:大都市の転出入超過数推移(年平均)
出典:「住民基本台帳人口移動報告」(総務省統計局)を基にNTTデータ経営研究所が作成
人口流入超のトップ3は東京23区、札幌市、福岡市
都市別にみると、転入超過数のトップ3は東京23区、札幌市、福岡市となる(2011~13年計、参考2)。札幌と福岡は、実は、転入者の年齢構成がきわめて対照的な都市だ。にもかかわらず、両市が東京23区に次ぐところが興味深い。
札幌市は、高齢者の転入が目立つ。60代、70代、80代、90歳以上のいずれのカテゴリーも、転入超過数は全国で断トツの1位だ。北海道内では、多くの地域で病院経営が難しくなっているという。このため多くの病院が札幌市内への開設を進め、つれて高齢者の札幌移住が加速している模様である。ちなみに、北海道全体では47都道府県中2番目の人口転出超となっており(2011~13年計、最大は東日本大震災の影響を受けた福島県)、札幌市と姿がまったく異なる。
一方、福岡市は、若い世代の転入が多い。市内に学生数1万人を超える大学が複数ある。コールセンターやゲームソフト開発など若者中心の職場も多い。10代、20代の転入者が多く、かつすべての年齢層で転入超が続くのが同市の特徴である。
(注)ちなみに転入超過数の年齢別動向をみると、首都圏等と地方大都市の間には大きな違いがある。首都圏等では、10代、20代で人口が大幅に流入したあと、30代以降はほぼ一貫して流出となる。他方、地方大都市は、ほぼすべての年齢層にわたり人口流入が続く傾向がある。
地方大都市の人口集積が効率的なサービス産業を生み出す
では、札幌市、福岡市に共通するものはなにか。一つは、サービス産業のウェイトが圧倒的に高いことだ。両市の産業の柱は、医療・介護、商業、コールセンターなどのサービス産業である。観光の玄関口であることも同じだ。市内総生産に占める第三次産業の比率はともに95%前後と、大都市のなかでもとくに高い(福岡市HPより)。
もう一つの共通点は、背後に巨大な労働力を抱えていることだ。サービス産業は、製造業に比べ多くの労働力を必要とする。これを北海道、九州全域の労働供給力が支えている。医療や介護に典型的にみられるように、人口の集積はサービス産業の効率的な運営をもたらす。両市は、人口集積のメリットを活かして、経済の好循環を実現しつつあるようにみえる。
むろん人口集積のメリットは大都市に限らない。それぞれの地域の核となる中堅都市も、小規模ながらも札幌市、福岡市と同等の機能を担うことになる。
問題は、その裏側で進む地方部の人口減少加速だ。ただし、注意を要するのは、全国すべての市町村が人口減少を食いとどめようとしても、不可能なことだ。合成の誤謬である。ましてや、その結果、大都市、中堅都市の人口集積が阻害されるようなことがあれば、地域全体としての成長力が損なわれかねない。政策目標は、各市町村の人口維持でなく、地域全体としての経済発展に焦点が当てられねばならない。
重要なのは、地方部で、より少ない人口をテコにどのような経済活動を喚起できるかだ。その際、着目すべきは、「人口が減少すれば、一人当たりの活用できる資源量は増加する」という事実だろう。その典型が農地である。農業の場合、一経営体当たりの耕作面積が大きければ大きいほど、生産性は高まる(農林水産省「農業経営統計調査・平成24年個別経営の営農類型別経営統計(経営収支)―水田作経営―」)。農業に限らず、資源を多く利用する産業では、一人当たりの利用資源量を増やすことで生産性の向上を目指すことになる。
地方の大都市や中堅都市は、人口集積のメリットを活かして、効率的なサービス産業を実現すること。他方、地方部では、人口一人当たりの利用する資源量の拡大により、第一次、第二次産業の活性化を図ること。模式的にいえば、これが人口減少・高齢化社会のもとでの地域経済の方向感となる。それが、今、札幌市=北海道、福岡市=九州で起こりつつあるようにみえる。
以 上
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