なぜ銀行界の名刺にはメイルアドレスがないのか? ~IT感度の向上に配慮を
2014.06.02銀行界に際立って低いメイルアドレス記載率
名刺に、メイルアドレスが記載されたものとそうでないものとがある。気になって、業種別に分類してみた。
個人的に頂戴した名刺なので偏りはあろうが、傾向は一目瞭然だ。
銀行、協同組織金融機関の役員方の名刺には、メイルアドレスの記載が少ない。ともに記載率は2割台だった。対照的に、外資系金融機関は9割を超えた。証券・投資顧問・生損保も8割強、一般事業会社も8割弱だった。銀行界の記載率の低さはやはり際立つ(参考)。
参考:名刺にメイルアドレスが記載されている割合
(注) 2012年6月から2014年4月にかけて、筆者が頂戴した名刺のうち 役員クラスの方々のもの(計581枚)
なぜ、銀行界の名刺にはメイルアドレスの記載が少ないのか。おそらく、不審メイルや売込みメイルの受信を避ける意図があるのだろう。事務方段階で処理したいとの気持ちも強いのかもしれない。ボトムアップ型組織文化の反映とする見方もある。果たしてどうか。
もちろん、名刺にメイルアドレスが書かれているからといって、役員本人が直接開封しているとは限らない。他業界を含め、スタッフが開封し、取捨選択している例も少なくないだろう。とすると、とりわけ銀行界だけが外部とのメイルのやり取りに慎重なようにみえる。名刺にメイルアドレスを書かない慣行は、わが国銀行界に固有のものといってよい。
インターネット環境も銀行界固有
銀行界にもう一つの固有の現象は、多くの銀行が机上の端末をインターネットに接続していないことだ。日頃業務やメイルに使う端末からはインターネットを遮断し、インターネットの利用は別に設置した専用端末からだけとしている。
これは、もっぱら情報の外部流出を防ぐためのものである。情報セキュリティ確保の方法は一通りではないが、多くの銀行がインターネットと端末を最初から分離する方法を選択していることになる。
IT感度の向上に配慮を
銀行がどのようなIT装備をするかは、もちろん各行の判断だ。ただ、上記のような銀行固有の枠組みの結果、銀行は、みずからをIT環境から遠ざけていることを意識しておかなければならない。日々の業務が、他業界とまったく異なる環境のもとで行われていることへの意識だ。
たとえばメイル。多くの人は、メイルのおかげで、電話をかける機会が激減したと感じているはずだ。「先方の仕事の邪魔をしないよう、まずはメイルで」とする人も増えている。「電話しなければならないのは、実は銀行役員だけ」とする取引先も、案外多いのかもしれない。
インターネットに接続されていないばかりに、すぐ調べられるはずのことが放置されている例も多いのではないか。たとえば、インターネット上の情報をハイパーリンクで伝えられた場合を想像してみよう。本来ワンクリックで済むものを、専用端末まで出かけ、アドレスから打ち直さなければならないとすれば、よほどの案件でないかぎり、そうはしないだろう。インターネットからの遮断は、銀行の情報入手機会を大きく制約している。
もちろん本稿は、端末をインターネットに接続すべきと主張するものではない。最近も、一部のウェブブラウザに脆弱性が見つかり、震撼とさせられたばかりだ。新手のサイバー犯罪も続いている。情報セキュリティ確保のためにどのような方法をとるかは、個々の銀行が責任をもって判断すべき事柄である。
ただ、みずからをIT環境から遠ざけることの積み重ねが、組織としてのIT感度を鈍らせていないかが気になる。
新たなアイデアを生みだすのは、外部からの「刺激」である。とくに金融業は巨大な情報産業であるだけに、外部からの情報を積極的に取り込む努力を続けていかなければならない。サイバー犯罪に対抗するためにも、組織としてのIT感度を高めておくことが重要だ。
そのためには、まずもって銀行幹部自身がIT感度を研ぎ澄まし、情報の入手・更新に努める必要があろう。上記の銀行を取り巻くIT環境を思えば、これはよほど努力を要することだ。たいへんなことではあるが、わが国における金融サービスの一層の高度化が実現するためにも、ぜひともお願いしなければならないことである。
以 上