フィンテックは(FinTech)どう利用され、どこへ向かうか。
2015.09.01金融機能のアンバンドリング
フィンテック(FinTech)がブームだ。
多くのベンチャー企業が、最新の情報通信技術を駆使して、新たな金融サービス(フィンテック)の提供に乗り出している。企業の数は世界で1,000を優に超えると言われる。
下記の参考は、「フィンテック」と呼ばれる金融サービスの例を機能別に分類してみたものだ。種類は多岐にわたるが、大まかにいえば、銀行や証券、保険がこれまで一体のサービスとして提供してきた金融サービスを、細かく分解し、それぞれに高付加価値化を目指すものが多い。すなわち、金融機能のアンバンドリング(unbundling)である。
(参考)フィンテック企業が提供するサービス例
(出典)フィンテック提供各社のHPを基にNTTデータ経営研究所が作成
「金融機能のアンバンドリング」という概念は、従来、デリバティブを語る際に用いられてきた。たとえば、融資にかかるリスクを信用リスクや金利リスクなどに分解し、それぞれを独立して取引できるようにしたものがデリバティブである。
これが、デリバティブだけでなく、あらゆる金融サービスに応用され始めた。その背後には、情報通信技術(演算、記憶、通信技術)の革新に加えて、それらを支える物理的な技術の革新とコストの低下がある。
たとえば、センサーの能力向上と費用低下のおかげで、車や人の動線や行動を細かく把握できるようになった。スマホの能力向上と通信費用低下のおかげで、リアルタイムでデータを集めることが可能になった。これらを統合し、データ解析することで、保険商品のリスク算定手法やマーケティング手法が変わりつつある。
フィンテックは誰でも手掛けられる
では、フィンテックはどのように利用され、金融の全体像をどう変えていくのだろうか。
重要なことは、フィンテックは、金融機関に限らず、誰でも手掛けられることだ。銀行や証券、保険会社自らがフィンテックを取り込む場合もあるし、他業態が独自にフィンテックを手掛けることもある。後者の場合、金融業向けにサービス展開を図る場合もあるし、自らまたは他業態と組んで新たなビジネスの可能性を探る可能性もある。
結果的に、フィンテックによって生まれる新しい金融サービスは、既存の金融サービスを補完する場合もあるし、競合する場合もある。他の革新的な技術と同様に、なかには金融業や金融市場を変貌させる潜在力をもつものがあって不思議でない。
多様なフィンテックの利用場面 ~~金融機能を代替、付加する
以下、フィンテックの利用場面をいくつか想像してみよう(ただし、すべての取扱いが法制上、現時点で可能というわけではない)。
第1のフィンテックの利用場面は、従来金融機関が提供してきた金融機能の一部を、フィンテックで置き換えたり、新たな機能として付加するものだ。スマホ決済や資産管理のためのアプリ提供、ビッグデータ分析に基づく融資審査などがこれに当たる。
この場合、一部の金融サービスは、複数の金融機関が共同で利用する形が見込まれる。たとえば資産管理は、銀行、証券、保険会社が有するデータを一元的に集約・管理することではじめて、効率的な管理・助言サービスが可能となる。
第2の利用場面は、ウェブ上で運用者と調達者を結びつけるものである。クラウドファンディングやソーシャルレンディングがこれに当たる。最大の特徴は、中小企業や個人などの小口資金を対象としていることだ。
従来、金融市場や資本市場への直接参加は、金融機関や機関投資家、大手企業などに限られていた。株式公開や公募債発行を思い浮かべればわかるように、市場への参加には多額の費用がかかる。そのために、中小企業や個人は、銀行や証券を通じて間接的に市場に参加するのが常だった。
しかし、情報通信技術の進歩のおかげで、市場への参入コストは大幅に低下した。この結果、小口の運用・調達ニーズを市場で、かつ短時間でマッチングさせることが可能になった。フィンテックの多くがリテール金融絡みであるのも、コスト低下のメリットは、中小企業や個人などのテールエンドに最も強く効くからだ。
こうした技術革新は、むしろ金融業以外の業態で先行している。海外で利用が急増しているUberのタクシー配車サービスや、Airbnbの宿泊施設提供サービスは、供給側に個人の参加を促したものだ(車両と運転サービス、空き部屋の提供)。
彼らがタクシー業界やホテル業界に与えたインパクトの大きさから類推すれば、フィンテックも、金融市場に並々ならぬインパクトをもたらす可能性がある。
多様なフィンテックの利用場面 ~~「つながり」を軸に新たなサービスを開拓する
第3は、実物(財・サービス)の移動に伴い発生・消滅する金融ニーズに対応するものだ。
国内外で、バリュー・チェーン(サプライ・チェーン)の拡大が進み、生産基盤の分散が進んでいる。多くの財が、素原材料や中間財など形を変えながら地域間移動を繰り返し、その末に完成品となる。財の移転が起こる都度、送金・決済や企業間信用などの金融ニーズも発生と消滅を繰り返している。
さらにIoT(Internet of Things )のおかげで、財・サービスがどこで、どのような状態にあるかをリアルタイムで捕捉できるようになった。そうであれば、商流(財・サービスの流れ)と金流(金融の流れ)を一括して管理することができれば、より効率的な金融サービスが生まれうる。
たとえば、一括管理が進めば、企業にとって「消込み」が容易になる(入金を1件ごとに売掛金と照らし合わせ消し込んでいく作業)。これに動産担保を絡めれば、「中間財の納入⇒動産担保融資⇒即時決済」といった一連の流れが形成されるかもしれない。仮想通貨に用いられるブロックチェーン技術の応用範囲も広そうだ。
第4は、マーケティングへの展開を念頭に、決済や投資、借入等に関する顧客データを広く収集し、ビッグデータ解析を進めるものだ。
この場合、データの収集範囲は金融データにとどまらない。金融情報に加えて、商品の取引情報もあわせもつようになれば、より詳細な顧客分析が可能となる。
これまで他業態が積極的に決済業務に参入してきたのも、より多くの顧客データを収集し、マーケティングに利用することに狙いの一つがあった(2015年8月「銀行はなぜビジネスモデルの見直しを迫られるのか」参照)。そうであれば、フィンテックの進化とともに、業態を超えた提携や参入が今後一層増えることは間違いない。
フィンテックは業態を超えた共同と競争を生む
以上は、フィンテック利用場面の一例を述べたにすぎない。フィンテックの応用例はこのほかにも多岐にわたる。
そうした過程を通じて、金融機能は単に細かく分解されるだけでなく、金融機能の再結合(リバンドリング、re-bundling)によって、より高度なサービスに生まれ変わる。 たとえば、ブロックチェーン技術を用いれば、送金と元帳の機能をあわせもつことができる。
もちろん、金融はもともとバーチャルなサービスの集合体であり、これまでも技術革新とともに進化してきた。そのことを踏まえれば、ことさらフィンテックだけを取り上げて、そのインパクトを過大視することは適当でないかもしれない。
しかし、フィンテックが、金融業態内部はもちろんのこと、業態を超えた共同と競争を惹起することは疑いない。それが、従来の金融市場や金融制度の一部を壊し、結果的に金融機関の姿を変える可能性は大いにある。金融機関はフィンテックの潜在力を意識しつつ、自らの適応の方向性を考えていく必要がある。
以 上
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