「外国人」は労働市場にどれだけ貢献しているか?
2016.06.01外国人が団塊世代引退の穴を埋める
人手不足が強まる日本で、追加的な労働力の供給源は、高齢層、女性、外国人の3カテゴリーとなるだろう。では、(在留)外国人はどれほど労働供給に貢献しているか。
わが国の完全失業率(季節調整済み)は、2009年夏にリーマンショック後のピーク5.5%を記録したあと、2016年4月には3.2% まで低下した(参考1)。これには、労働需給の両面、すなわち①就業者の増加(120万人)と、②労働力人口の減少(-20万人)がともに寄与している(「労働力調査」)。
このうち、外国人の就業者(統計上は「外国人労働者」)は、2015年10月までの6年間に35万人増加した(「外国人雇用状況の届出状況」)。統計が異なるので注意が必要だが、2009年以降の全就業者増加数のおおむね3割相当を外国人に依存してきた計算となる(注)。
就業者全体に占める外国人の比率は、ストックベースでみれば1%台にとどまる。にもかかわらず、最近6年間のフローベースの比率は、上記のとおり「3割相当」に達する。この大幅な乖離は、①団塊世代の引退に伴い国内の人手不足がいかに急速に進行したか、また、②人手不足の補てんをいかに外国人に頼ってきたかを端的に物語るものだ。
(注)「労働力調査」は、外国政府の外交使節団等を除く、わが国に居住する全人口を対象としている。したがって、観念上は、在留外国人労働者のほとんどが「労働力調査」でカバーされていることになる。ただし、労働力調査は標本調査であるなど、統計技術上の制約があることに留意を要する。
(参考1)最近6年間における全就業者と外国人就業者の増減
(注1)外国人就業者(=外国人労働者)数は毎年10月末時点の調査であるため、ここでは、2009年10月末および2015年10月末のデータをそれぞれ対応させている。
(注2)完全失業率、全就業者数は季節調整済み計数、外国人就業者数は原計数。
(出典)総務省「労働力調査」、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」を基にNTTデータ経営研究所が作成
外国人の就業増は製造業、小売業、飲食業が中心、医療・福祉分野は限定的
では、外国人の就業はどのような産業で増えたか(参考2,3)。
2009年以降、外国人の就業が最も増えたのは製造業だ。その数は+7.7 万人に達する。これに、「卸売業、小売業」+5.8万人、「宿泊業、飲食サービス業」+4.4万人が続く。一方、医療・福祉分野の就業増加は+0.9万人にとどまる。
これら外国人の就業状況は、在留資格と密接に結びついている。
製造業や建設業は、2010年に在留資格として新たに制度化された「技能実習」での就業が多い。「技能実習」資格に基づく両業種の外国人就業者数は、現在13万人を超えている(ストックベース)。
一方、卸売業、小売業や宿泊業、飲食サービス業は、「資格外活動(留学)」に基づく就業が多い。すなわち、外国人留学生によるアルバイトが多数を占めるとみられる。
これらに対して、介護分野への就業は、①経済連携協定のある国からの介護福祉士またはその候補者(「特定活動」の在留資格)や、②「永住者」、「定住者」等、身分に基づく在留資格が対象となる。しかし、その数は少ない。
(参考2)産業別の全就業者および外国人就業者の増減
―2009年10月末から2015年10月末までの変化(原数値、万人)
(注)総務省「労働力調査」、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考3)在留資格別外国人就業者の増減
―2009年10月末から2015年10月末までの変化(万人)
(注)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」を基にNTTデータ経営研究所が作成
外国人雇用政策の一貫性は?
現在のわが国の外国人雇用政策は、専門的な知識、技術、技能を有する「高度人材」を積極的に受け入れるというものだ。一方、その他の人材に対しては消極的な姿勢を基本としつつ、途上国支援等を目的とするものに限って門戸を開放する建前となっている。
たとえば、経済連携協定のある3か国からの外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れについて、厚生労働省HPは以下のとおり記載している。
【これら3国からの受入れは、看護・介護分野の労働力不足への対応として行うものではなく、相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、経済活動の連携の強化の観点から実施するものです。(厚生労働省HP「インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて」より抜粋)】
同様に、技能実習制度も、「開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること」が目的とされている(厚生労働省HP「技能実習制度」)。
だが、国内の深刻な労働力不足を反映して、「技能実習」資格に基づく外国人の受け入れは急速に進んだ。これが、製造・建設分野での労働需給の緩和に大いに貢献する一方で、外国人技能実習生に対し十分な職場環境が提供されない場合があるとの指摘がされる背景となった。
他方、介護分野では外国人の参入が依然厳しく制限され、国内で最も人手不足が深刻な分野であるにもかかわらず、外国人による労働力不足の補てんを期待しにくい状況が続いている。
両者を合わせみると、外国人雇用政策の一貫性を保つことは難しい。結局、「高度人材以外の受け入れは途上国支援等の目的に限定する」という建前が、実態にそぐわなくなったということだろう。
国内に外国人介護福祉士やその候補者のサポートを受けるお年寄りがいるにもかかわらず、「(その受け入れは)相手国からの強い要望に基づくもの」とするのは、外国の人々の眼にはどう映るのだろうか。
外国人の就業を円滑に進めるには、教育・研修の充実など、日本側の一層の体制整備も欠かせない。国内の労働市場の実態を踏まえたうえで、建前を見直し、外国人雇用政策の議論をさらに深めていく必要がある。
以 上
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