金融経済イニシアティブ

人口減少の何が問題で、何を問題視すべきでないのか ~60年後の日本の人口は、今のどの国と同じか

2016.12.01

「少ない人口」は(国民一人当たりの)経済成長の阻害要因ではない

人口の減少は、日本経済が克服すべき課題である。しかし、人口減少の何が問題かは十分に見極める必要がある。

「人口減少は経済成長を阻害する」との見方がある。これを一国の国内総生産(GDP)全体の問題と捉えれば、人口の減少はたしかに成長率の押し下げ要因となる。就業者の減少が避けられないとすれば、経済全体のパイを従来と同様のペースで拡大させることは難しい。

しかし、より重要なのは「国民一人あたりの経済成長率」である。国民の豊かさは、本来、年少者、高齢者を含む国民一人一人がどれだけ経済成長の果実を享受できるかで測られるべきだからだ。

では、そもそも「少ない人口」は国民一人あたりの経済成長を阻害するか。

参考は、日本の将来人口を現在の各国の人口順位にあてはめたものだ。2016年10月現在の日本の人口は127百万人だった。これが60年後の2075年には71百万人となる。実に4割以上の減少だ。

しかし、これは現在の英国、フランス、イタリアの人口よりも多い。今の日本はそれだけ世界で有数の多人数国家ということだ。もちろん、今の英国やフランス、イタリアで、「人口が少ないから経済が成長しない」といった議論は存在しない。

問題は「少ない人口」にあるのではない。人口減少の過程で生じる「社会制度や慣行との不整合」が、問題をひき起こすということだ。もしこれを放置すれば、国民一人あたりの経済成長率も低下を免れない。

 

(参考)世界の人口(2016年)と日本の将来推計人口 (百万人)

 

(注)推計値を含む。日本の2016年は2016年10月の実績値(概算値)で補正。
(出典)国連人口基金・世界人口白書2016年、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」を基にNTTデータ経営研究所が作成

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就業者比率の維持こそが最大の課題

最大の論点は、人口に占める就業者の比率を維持できるかどうかだ。高齢化の進展にもかかわらず、人々がこれまでと同様の年齢で引退すれば、人手が足りなくなるのは明らかである。

就業者比率の低下は、より少ない働き手でより多くの高齢者を養っていかなければならないことを意味する。しかも、高齢化とともにその傾向が年々強まる。成長への足かせとなるだけではなく、いずれ社会ももたなくなるだろう。

一人一人がより長く働くしかない。ちなみに、2010年並みの就業者比率(労働力率)を2060年も維持しようとすれば、みなが70歳代半ばまで働く必要があるとの試算結果となる(2013年9月「70歳まで働いて帳尻をあわせよう」参照)。

要は、みなが健康年齢一杯まで働くことである。それが健全な社会と考えるべきだ。

財政収支の悪化は現役世代、将来世代への負担の転嫁

財政収支の悪化も構図は同じだ。

90年代半ば以降の財政収支の悪化は、主に社会保障関係支出の増大に起因する。これは、長寿化、高齢化のトレンドを十分に織り込んでこなかった制度設計の欠陥である。

年金制度をみてみよう。厚生年金の支給開始年齢は、発足当初(1940年代)の55歳から段階的に引き上げられてきたが、今なお65歳への引き上げ途上にある。また、国民年金は、1961年の発足当初からの65歳がそのまま維持されている。

この間、日本人の平均寿命は1950年頃に比べ男女とも20年以上伸びた。1961年当時(国民年金発足時)に比べても、15年前後の伸びだ。
寿命の伸びを支給開始年齢が追いつかなければ、制度が安定しないのは当然である。

年金(保険)は「保険」の名をかたりながらも、保険料だけでは支出を賄えず、国の負担を増やすことで制度が維持されてきた。これは現役世代や将来世代への負担の転嫁にほかならない。

若い世代が将来に希望をもてる社会とするには、やはり財政の健全化が急務だ。そのためには、高齢層にできる限り財政の支出サイドから収入サイド(保険料や税の納付)に回ってもらう必要がある。

個々人が長く働く社会づくりは、財政再建の観点からも不可欠である。

「東京一極集中論」はミスリーディング

「人口減少に伴い東京一極集中が進んでおり、その是正が必要」との議論も少なくない。しかし、これはミスリーディングだ。

今起こっているのは、東京一極集中というよりも、「大都市、中堅都市への凝縮」であり、その典型としての「中核4域7県(東京圏、大阪府、愛知県、福岡県)への凝縮」である(2016年9月「なぜ「東京一極集中」論はミスリーディングなのか」参照)。

人口が減る以上、地域の再編は避け難い。人々は、労働力不足の強まりを眺め、所得水準のより高い大都市、中堅都市に流入している。高齢層も、医療・介護施設に近い中心部に住居を求めるようになった。人口減少のもとでの人口の凝縮は、達観すれば自然な姿だ。

もちろん地方の産業競争力が高まり、その結果として人口が地方圏に移動することは望ましい。しかし、産業競争力が高まらないままに、地方圏への人口移動だけが促進されるようであれば、日本経済の成長力を弱めかねない。本末転倒は避けなければならない。

地方にとってのもう一つの課題は、人口増加の過程で拡散した公共インフラの取扱いである。財政面の制約を踏まえれば、老朽化するインフラのすべてを更新するわけにはいかない。地方自治体はインフラ更新の優先順位付けを急ぐ必要がある。

高齢層は若い世代に対して責任をもつ。人々が引退後ゆったりと余生を楽しむ姿は、今後の日本の理想的な姿ではない。勤労を尊び、個々人がより長く働く社会こそが、これからの日本のあるべき姿だろう。

以 上

 

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