愛知県が深刻な人口流出超に直面する理由 ~女性が決める人口移動
2021.02.012020年の「住民基本台帳・人口移動報告」(総務省)が公表された。
昨年来注目を集めてきたのは、コロナ禍で5月以降、東京都が人口流出超に転じたことだった。しかし、人口流出入の規模は、進学、就職期の3、4月でほとんどが決まる。昨年も1年を通してみれば、東京都は3.8万人の流入超だった(日本人移動者、以下同じ)。
東京圏1都3県をみても、9.8万人の流入超である。流入超幅は、前年に比べ縮小したとはいえ、地方創生の開始前(2013年)をさらに上回る高水準にある。
大都市圏への人口移動は、景気の好調時に加速し、停滞時に鈍化する傾向がある。今回もこれに沿う動きだ。コロナ禍に伴うテレワークで、東京など大都市圏からの移住が増えたとの見方があるが、現時点ではインパクトは限られるだろう。
むしろ気になるのは、愛知県が人口流出超に転じたことだ(日本人移住者、参考1参照)。外国人を含む移動者全体では、2年連続の転出超となる。これにも「コロナ下でのテレワーク普及により、県外への移住が進んだ」との記事があったが、的外れだろう。変化の兆しは、すでに2,3年前から表れていたからだ。
流出超の直接的な理由は、製造業の雇用減である。しかし、他の大都市、とりわけ大阪市などと比べれば、名古屋市における女性の雇用吸収力の弱さが目立つ。若年女性を名古屋市が受け入れきれず、県外に流出する構図にある。
(参考1)愛知県、大阪府、福岡県の人口転入超の推移
(注)日本人移動者。
(出典)総務省「住民基本台帳・人口移動報告」を基に筆者作成。
中核4域7都府県に人が集まる理由
地方圏から大都市圏に人が集まる理由は、①大都市圏における人手不足の加速と、②大都市圏と地方圏の間の所得格差の2点にある。
日本は、1990年代半ば以降、生産年齢人口(15~64歳)の減少が続く。さらに2010年代には、団塊世代の引退増加を背景に、人手不足が大都市圏にも波及した。いまや大都市圏の経済は、域外からの人口流入なくしては成り立たない。大都市圏が地方に人材を求める圧力は、今後ますます高まる。
他方、大都市圏と地方圏との所得格差は大きい。2016年の「経済センサス」(総務省統計局)によれば、「専業従事者一人当たりの付加価値額(全産業)」は、中核4域7都府県(東京圏4都県、大阪府、愛知県、福岡県)の年間609万円に対し、地方40道府県は年間470万円にとどまる。
従業員への給与は、この付加価値額の中から支払われる。付加価値額にこれだけの差があれば、多くの若者たちが大都市圏に向かうのは自然だろう。
女性がつくる人口移動の流れ
こうした中で、最近の特徴は人口移動が女性中心であることだ。年齢層でいえば、20歳代を中心とする女性である。
この傾向は、都道府県単位だけでなく、都市単位でもみてとれる。21大都市(東京23区および政令指定都市)中、20年に人口流入超を記録したのは13都市だった。このうち11都市までもが、女性が男性を上回った。
大都市圏の経済は、サービス業中心だ。大都市圏には医療・福祉、卸・小売り、宿泊・飲食サービスなど、女性の就業機会が多い。これが女性の社会移動を促すきっかけとなっている。
ただし、絶対数(グロス)でみて、女性の地方圏からの流出数が男性より多いわけではない。あくまで流出超数(ネット)の話である。
これは、①地方圏出身で、大都市圏の短大や大学を卒業した後、地元に戻る女性が少ないことと、②地方圏で職を得て移動する大都市圏出身の女性が少ないことを意味している。
なお、昨年は日本全体の人口移動が減った。コロナ禍に伴う外出自粛でサービス業が打撃を受け、女性への求人が減少した結果である。従来ならば都内で独り暮らしをしていたはずの女性が、職が不安定になったために、実家で暮らし、通える範囲で職を探す選択をしたといったケースである。
大阪に割負ける名古屋の雇用吸収力
愛知県の人口移動でも、女性の流入減少が目立つ。東京圏(1都3県)、大阪、福岡と比べれば、違いは一目瞭然だ(参考2参照)。
(参考2)愛知県、大阪府、東京圏、福岡県の男女別転出入超の推移
(注)日本人移動者
(出典)総務省「住民基本台帳・人口移動報告」を基に筆者作成。
愛知県は、1980年代半ばに人口流入超に転じたあと、一貫して流入超の基調を続けてきた。これを支えたのは、製造業の雇用である。男女ともに、製造業での就業割合が高い。
しかし、足もと、製造業の雇用は減っている。とくに、この1年間は、製造業における女性の雇用減が目立つ(愛知県「愛知県の就業状況(2020年7~9月(平均)」)。外国人の人口流出も、製造業の雇用減少の結果だろう。人口流出超への転化は、これが直接的な理由である。
ただ、他の大都市に比べれば、愛知県の最大の特徴は、名古屋市の女性の流入超幅が小さいことにある。東京圏内の大都市(東京23区、さいたま市、横浜市)はもとより、大阪市、福岡市、札幌市に比べても、名古屋市の女性の流入超は小幅にとどまる。
大阪府は近年人口流入が加速しているが、その背後には大阪市への女性の活発な流入がある。一方、愛知県では、名古屋市が女性の受け皿となりきれていない。
詳しい理由は明らかでないが、サービス業の規模が相対的に小さいのだろう。そのために、製造業の雇用減を打ち返せないまま、女性が東京や大阪に流出する構図にある。
愛知県に限らず、人口移動の流れは女性がつくる。人口を地域にとどめようとするのであれば、県内外の女性に対し、よりよい就職機会を提供できているかどうかを問う必要がある。
以 上
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