人口構成と日本経済(2/5) 少子化は「老後の安心感」の産物?
2021.04.19前回述べたように、日本の人口ピラミッドは「脚の長い凧形」に向かう。少子化と長寿化の結果だ。少子化がピラミッドの下方をスリムにし、長寿化が全体の形状を縦長にする。
両者は本来独立した事象だが、実際には、長寿化を可能にした社会制度が少子化を加速させている。少子化に歯止めをかけるには、社会を貫くパラダイムの転換が必要だ。
失われた3つ目の人口の塊
参考1は、前回示した人口ピラミッドの再掲である。日本の人口は、将来、右図(2065年)のような「脚の長い凧形」となる。しかも、その後も延々と続く。そうなる理由は、左図(2015年)のピラミッドにすでに暗示されている。
(参考1)日本の人口ピラミッド(2015年、2065年)
(注)2065年は出生中位、死亡中位推計。
(出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」を基に、筆者が作成。
2015年のピラミッドには、2つの人口の塊がある。団塊世代と団塊ジュニア世代(団塊世代の子ども世代)である。しかし、真の問題は、3つ目の塊が見当たらないことだ。もし高い出生率が維持されていたならば、2015年時点の15歳前後に「団塊ジュニアの子どもたち」の塊があるはずだった(その影は左図にうっすらと見て取れる)。
端的にいえば、団塊ジュニア世代が子どもを多くもたなかったということだ。しかし、これは団塊ジュニアだけのせいではない。
日本の合計特殊出生率(以下「出生率」)は、戦後ほぼ一貫して低下してきた(参考2参照)。2000年代半ばに一時持ち直す場面もみられたが、晩婚化に伴う一時的なアヤだろう。その後再び低下傾向に入り、まだ下げ止まりを確認できていない。人口ピラミッドに3つ目の塊がないのは、こうした長い歴史の産物である。
(参考2)合計特殊出生率と婚姻率の推移
(出典)総務省「人口動態統計」を基に筆者が作成。
「出生率の低下は婚姻率の低下が主因であり、結婚した夫婦はそれなりに子どもを産んでいる」との説がある。しかし、出生率と婚姻率がともに低下したのは、1970年代半ば以降のことである。それ以前は、婚姻率の上昇にもかかわらず、出生率は低下を続けていた。
少子化は、やはり①結婚した夫婦がもつ子どもの数が減少したことと、②婚姻率が低下したこと、の両方に理由があるとみるのが自然だろう。ともに歴史の産物であり、どこか特定の世代に責任があったわけではない。
老後への安心感が出生率を低下させた?
厄介なのは、出生率や婚姻率の低下の原因が、必ずしもはっきりしないことだ。そのために、根拠や効果が明確でないまま、多くの少子化対策が単発的に講じられてきた。結婚支援のための合コン企画や、相対的に出生率の高い地方圏への移住促進策もあった。
ここでは、試みに一つの仮説を提示してみたい。唯一の手がかりは「貧しい国は出生率が高く、国が豊かになると出生率が下がる」という事実である。その意味するところは何か。
発展途上国は、一般に、老後の保障や医療体制が充実していない。公助や共助が十分でないため、老後の安定は自分で手当てするしかない。そのための一つの対策が、子どもを多くもつことではなかったか。
戦前の日本もそうだった。自身が若くして病気になることもあったし、子どもが早世する割合も高かった。そうしたリスクに備えるため、より多くの子どもをもち、老後の安定を子どもに託す仕組みが社会に組み込まれていたのではないか。
もちろん、当人たちが「自分の老後」を意識して子どもを多く産んだわけではないだろう。戦前の「家制度」のように、社会通念のなかに仕組みが埋め込まれていた。マクロ的にみれば、多産は一種の私的な「保険」だった。
しかし、その後社会が豊かになるにつれ、公助の仕組みが整った。老後への不安感が薄れたことで、多産へのインセンティブは後退した。
社会を貫くパラダイムの転換を
問題は、さらにその先だ。
社会が公助の充実を一段と求めるようになると、国は財源を所得税の引き上げや国債の発行に頼るようになった。すなわち、現役世代や将来世代への転嫁である。
こうなると、若い世代は、老後よりも目先の生活に不安をもつようになる。夫婦共働きが増えたにもかかわらず、若い世代の暮らしは楽ではない。少産は、その不安をやわらげる一つの手立てなのだろう。
少子化は、しばしば将来不安が原因とされる。しかし、この表現には注意が必要だ。上記の仮説が正しいとすれば、単純な「将来不安」でなく、老後の安心感を得ようとする社会制度が、逆に目先の生活への不安感を高め、少産へのインセンティブを強めたことになる。
そうであれば、少子化を止めるには、「老後の安心 vs. 当面の生活の不安」のバランスを是正するしかない。社会保障に伴う恩恵と負担を世代内で均衡させ、後世代に負担を先送りしないことである。
もちろんこれは、高齢者にとってメリットが少ない。医療費負担割合の見直しも避けて通れない。しかし、現在の高齢者は、長寿の恩恵を最も強く享受する世代である。その恩恵を少しでも社会に還元することは、子世代、孫世代への責任である。
社会を貫くパラダイムの転換を急がねばならない。
以 上
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