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「東京一極集中」論はいまや的を外している ~国外からの人口流入で全国28県が「流入超過」に

2024.02.01

一昨日、2023年中の「住民基本台帳 人口移動報告」が公表された。報道は、引き続き「東京一極集中」論が多かった。①東京圏の流入超過に対し、大阪圏、名古屋圏は流出超過にあること、②各県別にみても、流入超過は東京圏4都県、大阪府、福岡県、滋賀県の7県に限られること、などが根拠である。

 

しかし、これは国内移動のみを切り取ったデータだ。各地にとって重要な真の「社会移動」は、これに国外からの人口流出入を加えたものでなければならない。国内に転入する日本人・外国人から、国外に転出する日本人・外国人を差し引いたものとの合計である。

 

試算すると、2022年以降、日本の人口移動は劇的に変化している。東京圏だけでなく、大阪圏も名古屋圏もはっきりとした流入超過にある。このほかにも、流入超を記録している県や市は多い。

 

東京一極集中論にいつまでも囚われていては、政策を誤る。日本経済、地方経済のいずれにとっても、最も重要な論点はいつまで外国人の流入が続くか、受け入れ態勢の整備を急ぐにはどうすればよいかである。

 

名古屋圏、大阪圏もはっきりとした流入超過に

 

総務省の「住民基本台帳 人口移動報告」は年々充実が図られており、2020年以降、国外との人口流出入のデータも得られるようになった。2023年の国外からの流入超数は、35.3万人だった。他の統計(後述の在留外国人統計)との平仄からみて、過去最高の流入超だったと推定される。

 

参考1は、3大都市圏別にみた人口移動の実績である。国内の移動だけでなく、国外との人口移動も加味した数字である。計算式は、次のとおりだ。

各地の人口流入超数=「国外からの転入数(日本人、外国人の合計、以下同じ)」―「国外への転出数」+「国内他地域からの転入超数」

 

(参考1)3大都市圏の人口流入超数(国内および国外からの流入超数計)

(注1)東京圏は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県。名古屋圏は愛知県、岐阜県、三重県。大阪圏は大阪府、京都府、兵庫県、奈良県。

(注2)全国市部は全国の市および区の合計。全国郡部は全国の町および村の合計。

(出所)総務省「住民基本台帳 人口移動報告」をもとに筆者作成。

 

新型コロナの感染拡大を受け、2021年は東京圏の流入超数が大幅に縮小し、大阪圏、名古屋圏も流出超に沈んだ。その後2022年、2023年と、東京圏は大幅な流入超に転換し、大阪圏、名古屋圏も流入超に転じた。東京圏では、国外からの流入超数が国内他地域からの流入超数を大幅に上回っている。

 

地方でも進む外国人の流入

 

国外からの流入は、地方でも進行している。おかげで、国内移動だけでは流出超にもかかわらず、トータルでは流入超となった道府県が21に達した(参考2)。国内、国外ともに流入超の7県と合わせれば、全国47都道府県のうち半数以上の28県が人口流入超となった計算にある。

 

例えば、北海道は、一時期、国内への流出超が最も多い県として知られていたが、外国人の流入超で、いまや流入超県の一つとなった。愛知県は、このところ日本人の流出が目立つが、外国人の流入がこれを埋め合わせて余りある状態となっている。

 

(参考2)2023年の都道府県別人口流出入状況(国内、国外からの流入超合計)

(注)国外との人口移動は、全国47都道府県のすべてが人口流入超にある。

(出所)総務省「住民基本台帳 人口移動報告」をもとに筆者作成。

 

人口流出に苦しんできた大都市も流入超過に

 

これまでは、21大都市の中にも人口流出に頭を悩ませてきた都市が少なくなかった。神戸市、堺市、浜松市、静岡市などである。これらの都市は、産業の主体が製造業であったために、工場の海外移転などで雇用が縮小した。また、東京、大阪、名古屋、福岡といった大都市に近接していることがアダとなり、人口流出が続いていた。

 

しかし、これらの大都市も、外国人の流入のおかげで、流出一服の状態となっている(参考3)。長期にわたり人口流出が続いてきた北九州市も、流出入ほぼ均衡の状態まで戻している。

 

また、京都市が特徴的だ。京都市は日本人の流出が続くが、外国人だけをみれば、東京都特別区部、横浜市、名古屋市に次ぐ全国第4位の流入超過にある。留学生が増えていることのほか、外国人による土地購入が増えているとの見方がある。そうであれば、北海道のニセコ町や占冠村(しむかっぷむら、トマムリゾート所在地)と類似の状況にある。

 

(参考3)21大都市の日本人、外国人別人口流出入超数(国外からの流入超を含む)

(出所)「総務省「住民基本台帳 人口移動報告」をもとに筆者作成。

 

外国人の流入が続くかどうかが最重要課題に

 

外国人の急激な流入増加は、基本的に国内の人手不足の反映である。2019年以前と比較するため、別の統計(在留外国人統計)も確認しておこう(参考4)。

 

2016年から2019年にかけての在留外国人の増加は、平均17.5万人だった。一方、2022年は31.5万人に達した(2023年は未公表)。これほどの増加は新型コロナからの反動だけでは説明がつかず、多くの企業が労働力不足への対応を急いだ結果だろう。

 

 (参考4)在留外国人の増減数

(注)2023年中は、上期の増加実績を2倍したもの。

(出所)出入国在留管理庁「在留外国人」統計をもとに筆者作成。

 

2022年の増加数31.5万人は、昨年国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」の仮定を大きく上回る。このペースで外国人の流入が続けば、同将来推計よりも20年ほど早い2050年ごろに人口の1割が外国人となる計算だ。

 

今後、日本の労働力不足は一段と強まる。2020年代半ばまでには団塊世代が全員後期高齢者入りし、2030年代には生産年齢人口(15~64歳)の減少スピードが速まる。外国人の流入は、こうした労働力不足の緩和に貢献するものであり、期待は大きい。

 

その一方で、日本の外国人の受け入れ態勢は万全とは言い難い。コミュニティの受け入れ態勢や日本語教育をさらに充実させる必要がある。

 

足元の外国人の流入スピードは想定をはるかに上回る。いつまで持続できるかも明確でなく、このままでは国内での外国人の争奪戦も激しくなりかねない。

 

国内の人口移動だけをみて「東京一極集中」論を振り回すのは、いまや的外れだ。外国人の流入がいつまで続くか、どうすれば共生社会を構築できるかが、最も重要な課題となっている。

 

以 上

 

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