金融経済イニシアティブ

国民と日銀の物価感はなぜこうもズレるのか(1/2) ~「基調的な物価上昇率」のワナ:基調はすでに3%

2025.03.31

国民と日本銀行の物価感が著しくズレてしまっている。

 

日銀は「基調的な物価上昇率」という概念を用い、これが「まだ2%を幾分下回っている」として慎重な利上げ方針を維持している。

 

一方、国民が日々の生活で直面する物価の上昇率(消費者物価総合)は、前年比3%前後に達している。しかも3年近く続いてきた(参考1参照)。これを「基調」と呼ばずして「何が基調なのか」というのが国民の実感だろう。

 

政府はいま「強力な物価対策」を検討中と伝えられる。しかし、物価全般の高騰である以上、物価への対処は中央銀行の責務だ。当の日銀は、物価の高騰継続をむしろ望んでいるようにすら見えるが、どう理解すればよいだろうか。

 

 

(参考1)各種消費者物価指数の前年同月比推移

(注)2014年4月および2019年10月に消費増税があったため、その後1年間は物価上昇率が上振れしている。

(出所)総務省統計局「消費者物価指数」をもとに筆者作成。

 

「基調的な物価上昇率」は異次元緩和の評価材料として登場

 

日銀が「基調的な物価上昇率」との概念を持ち出したのは、2015年春ごろだった。

 

日銀は、13年4月に異次元緩和を開始した。開始当初は物価(生鮮食品を除く消費者物価総合、いわゆる「コア指数」)が前年比1%台を回復するなど、順調な滑り出しに見えた。しかし、14年後半になると伸び悩みが顕著になった。

 

さらに16年には、コア指数は前年比マイナスに転じた。そこでコア指数に代えて、日銀が強調し始めたのが「基調的な物価上昇率」だった。

 

「基調的な物価上昇率」として、日銀は当時複数の指標を提示していたが、16年9月の「総括検証(背景説明)」では、とくに「生鮮食品及びエネルギーを除く消費者物価総合」(いわゆるコアコア指数)を「基調的な物価」と定義し、これが過去2年半以上にわたり前年比プラスにあることを理由に、異次元緩和は効果があったと主張した(注1)。

(注1)総括検証(背景説明)からの抜粋:「基調的な消費者物価(除く生鮮食品・ エネルギー)は、『量的・質的金融緩和』導入前の▲0.5%程度からプラス に転じ、2年半以上にわたってプラス圏で推移しており、『物価が持続的に下落する』という意味でのデフレではなくなった。」 筆者注:文中の「量的・質的金融緩和」がいわゆる異次元緩和に当たる。

 

国民生活から乖離する「基調的な物価上昇率」

 

日銀が「基調的な物価上昇率」を掲げた理由は、短期的に振れの大きい品目の影響に目を奪われ、政策判断を誤ることのないようにしたいとの発想に基づく。

 

従来、生鮮食品を除くコア指数を重視してきたのも、同様の考えによる。あるいは「基調的な物価上昇率」を把握するための指標の一つとしてしばしば言及される「刈り込み指数」も、価格の変化率を品目毎に並べ、上昇・下落の上位10%にあたる品目を取り除いて再計算するものだ。

 

しかし、物価の基本に立ち返れば、全体から一部の品目を取り除くことはリスクがある。

 

本来、中央銀行が最も重視すべきは、国民が日々直面する全体の物価であり、これに最も近い存在は消費者物価総合だ。日銀も、過去そうした考えを繰り返し国民に表明してきた。一部の品目を安易に取り除けば、国民生活から乖離してしまうリスクが高まる。

 

したがって、指標の選択は慎重に吟味されなければならない。全体から除外してよい品目の条件は「価格の変動がランダムに起き、トレンドをもたないモノ・サービス」である。

 

しかし、コアコア指数も刈り込み指数も、またコア指数もこの条件を満たさない。

 

エネルギーも生鮮食品も、2000年代半ば以降、明確な上昇トレンドをもつ(参考2参照)。刈り込み指数も、除去した上下位10%に「エネルギー」のような品目が含まれれば、国民生活から乖離してしまう。日銀が従来重視してきたコア指数も、再検討が必要である。

 

(参考2)生鮮食品及びエネルギーの物価指数推移(2020年=100)

(出所)総務省統計局「消費者物価指数」をもとに筆者作成。

 

物価の基本に立ち返り、個別品目を除外するのでなく、より多くの品目を含めることが重要だ。個別品目による一時的なブレを避けたいのであれば、消費者物価総合の12か月移動平均や24か月移動平均をとる方が、はるかに「基調」と呼ぶにふさわしい。

 

ちなみに、参考3が消費者物価総合の12か月および24か月移動平均の推移である。このグラフを見れば、現状、物価の基調は年3%前後の上昇であることが分かる(注2)。

 

「まだ2%を幾分下回っている」とする日銀の物価感は、やはり国民生活からズレてしまっている。

(注2)移動平均の弱点は、過去1年ないし2年の平均値であるため、足元の動きとタイムラグがあることである。したがって、政策判断に当たっては、タイムラグを考慮し機動的な対応を心掛ける必要がある。

(参考3)消費者物価総合の移動平均値の推移(2020年=100

(出所)総務省統計局「消費者物価指数」をもとに筆者作成。

2025.04.01「国民と日銀の物価感はなぜこうもズレるのか(2/2、完):物価高対策は中央銀行の仕事」に続く

以 上