金融経済イニシアティブ

山本謙三のコラム・オピニオン

山本謙三による金融・経済コラムです。

ETF依存を高める日銀財務の「健全性」 ~金利上昇の財務影響を試算する

2024.03.01

金融市場では、近いうちに日銀がマイナス金利政策を解除するとの見方が増えている。

 

そうなると心配されるのが、金利上昇が日銀財務に及ぼす影響だ。長期金利の上昇は保有国債の含み損を拡大させ、財務を悪化させる。ただし、日銀は有価証券を時価評価していないので、あくまで実質ベースでの計算上の話である。

 

他方、バランスシート上は、日銀当座預金へのプラス金利の付利が期間損益を押し下げる。もし、多額の期間損失が続けば、債務超過の可能性が徐々に高まる。

「東京一極集中」論はいまや的を外している ~国外からの人口流入で全国28県が「流入超過」に

2024.02.01

一昨日、2023年中の「住民基本台帳 人口移動報告」が公表された。報道は、引き続き「東京一極集中」論が多かった。①東京圏の流入超過に対し、大阪圏、名古屋圏は流出超過にあること、②各県別にみても、流入超過は東京圏4都県、大阪府、福岡県、滋賀県の7県に限られること、などが根拠である。

 

しかし、これは国内移動のみを切り取ったデータだ。各地にとって重要な真の「社会移動」は、これに国外からの人口流出入を加えたものでなければならない。国内に転入する日本人・外国人から、国外に転出する日本人・外国人を差し引いたものとの合計である。

 

試算すると、2022年以降、日本の人口移動は劇的に変化している。東京圏だけでなく、大阪圏も名古屋圏もはっきりとした流入超過にある。このほかにも、流入超を記録している県や市は多い。

金融正常化に立ちはだかる、厚すぎる壁 ~日銀はバランスシートの偏りを克服できるか

2024.01.04

市場では、日本銀行のマイナス金利政策の解除が近付いているとの見方が多い。2%台の物価が続いている以上、マイナス0.1%の短期金利の解除は自然だろう。

 

日銀が金融の正常化に着手した後に直面するのは、バランスシートの問題だ。バランスシート上の日銀資産は、前回量的緩和の解除を行った2006年3月に比べ、規模が膨らんだだけなく、残存期間が顕著に伸びている。

世界はなぜ「分断」に向かってきたのか ~2024年が直面するリスク

2023.12.01

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、1年半余りが経つ。今年10月からは、パレスチナ地域でイスラエルとハマスの激しい衝突が続いている。

 

世界各地に強権政治が広まり、社会経済の分断が進んでいる。2024年はどこへ向かうのだろうか。

 

強権政治の広がり

 

世界の「分断」のきっかけは、やはり米国・中国の対立激化にあるだろう。背後には、両国の経済面での地位の変化、すなわち米国の相対的な地位低下と中国の地位上昇がある。

 

これを念頭に最近10年余りの主な出来事を年表にしてみると、いくつかの特徴に気付く(参考1参照)。

 

名目賃金がほとんど上がっていない謎 ~「賃金と物価の好循環」ははるかに遠く

2023.11.01

日本銀行は、昨日(10月31日)の金融政策決定会合で長短金利操作(YCC)を再修正し、長期金利が上限めど1%をある程度超えることがあっても、容認する場合があるとの姿勢を示した。

 

一方、マイナス金利をはじめとする大規模な金融緩和の大枠は維持した。日銀の公表文では、「「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現という観点から、賃金と物価の好循環など経済・物価情勢の変化を丹念に確認していく」としている。

 

では、足元の「賃金と物価の関係」はどうか。端的に表す実質賃金指数は、17か月連続で前年比マイナスに沈んでいる。直近8月の同指数前年比はマイナス2.8%と、到底「好循環」とは言えない状況にある。

 

春闘で大幅な賃上げが実現した際には、夏場にも「好循環」が確認されるとの観測もあったが、的外れだった。一体、何が起きているのだろうか。

コロナ禍前とは違うコロナ禍後の労働市場 ~対照的な男女の労働力人口比率に潜む光と陰

2023.10.02

2020年、新型コロナショックが労働市場を直撃した。とくに打撃を受けたのが、非正規の職員だった。飲食業や宿泊業など、パート、アルバイトに多くを依存する産業が軒並み売り上げを落とし、雇用を削減した。

 

あれから3年半。コロナ禍の収束とともに、就業者数はコロナ禍前の水準をほぼ回復した。

 

潜在的な労働力を示す労働力人口比率(注)も、上昇を続けている。同比率は、2010年代前半にかけて50%台後半まで低下したものの、その後は反転。コロナ禍による足踏みがありながらも、現在は1990年代なかばの水準まで回復している(1968年65.9%→2012年59.1%→2023年8月63.1%)。

 

しかし、同比率の男女別、年齢階層別の内訳を見ると、手放しでは喜べない現実も浮かび上がる。

 

(注)労働力人口比率は、「就業者」と「失業者」の合計を総人口で割ったもの。すでに就業しているか、就業の意欲をもち、そのための活動をしている人の比率を表し、潜在的な労働力の割合を示す。

 

賃金と物価は本当に「好循環」なのか? ~日銀のレトリックに潜む危うさ

2023.09.01

日本銀行は、2022年春に物価が目標の2%を超えて以来、物価と賃金の「好循環」を見極める姿勢を強調してきた。現在の基本方針も、「賃金の上昇を伴うかたちで、2%の 物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指す」だ。

 

事実上、「物価2%の安定的な達成」に、「物価と賃金の好循環の確認」という条件が加わった。おかげで、消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下同じ)が11か月連続して前年比3%を超えても、日銀は金融緩和の修正に踏み切らない。実際、実質賃金は前年比マイナスが続き、到底「好循環」とは言えない状態にある(参考参照)。

 

しかし、過去、中央銀行を悩ませてきたのは賃金と物価の「悪循環」の方だった。その可能性には一切言及しないまま、あたかも「好循環」だけが起きるかのような説明を繰り返すのは、なぜだろうか。

2021年経済センサス 明暗著しい「地域、産業の稼ぐ力」 ~ひとり勝ちの建設業、沈んだ娯楽・観光関連

2023.08.01

今年6月、総務省から「2021年経済センサス―活動調査」の詳細データが公表された。5年に1度実施される統計で、全国の企業、事業所の経済活動を市区町村別、産業別に横断的に分析できる。

 

ここでは、働く人の「稼ぐ力」を示す「事業従事者1人当たり純付加価値額」(以下、「1人当たり純付加価値額」)に焦点を当て、各地域、各産業の立ち位置を確認してみよう(注)。

(注)2021年の経済センサスでは、東京都港区の「医療、福祉」が巨額の純付加価値額を計上している(約40兆円)。年金運用などの関連法人が対象事業所に含まれている模様で、積立金の運用損益(含み損益を含む)が計上されたものとみられる。本稿では、原データから同区の「医療、福祉」を控除し、再集計したものを用いる。

 

純付加価値額とは、売り上げから原材料費や減価償却費などを差し引いたものを言い、ここから従業員への給与や税金が支払われ、残りが企業の利益となる。「1人当たり純付加価値額」は、「労働生産性」(就業者当たり純付加価値額)とほぼ同じ概念である。

 

先日、NHKがテレビ番組「映像の世紀バタフライエフェクト:ベトナム戦争 マクナマラの誤謬(ごびゅう)」を放送していた。概要が、同局のホームページに紹介されている。

 

「数字にばかりこだわり物事の全体像を見失うことを「マクナマラの誤謬」という。この言葉の由来となったのが、米国防長官を務めたロバート・マクナマラ。神童と呼ばれたマクナマラはデータ分析を駆使してベトナム戦争を勝利しようとしたが、数値では計れないベトナム人の愛国心やアメリカ市民の反戦感情に目を向けず、300万以上の犠牲者を出す泥沼の戦争を招いた。アメリカを敗北に導いた一人の天才の物語である。」(NHKホームページより)

「将来推計人口」が示す日本経済の険しい道のり ~「70代半ばまで働く社会づくりを」再考

2023.06.01

先日、国立社会保障・人口問題研究所が新しい「日本の将来推計人口(2023年推計)」を公表した。2020年の国勢調査を基にした推計である。

 

今回目立つのは、前回の2017年推計(2015年国勢調査)に比べ、外国人の大幅流入超を仮定したことだ。新型コロナ前までの実績をふまえたもので、前回の年約69千人(2035年)から今回は同約164千人(2040年)と、倍増以上を見込んでいる。

 

その結果、合計特殊出生率の下振れ(前回1.44⇒今回1.36)にもかかわらず、総人口の減少スピードは鈍化している。例えば、2050年時点の総人口(出生中位・死亡中位)は、前回の約102百万人から今回約105百万人へと上振れした(2020年実績:約126百万人)。

 

外国人のこれほどの流入超を維持できるかは微妙だが、本稿では、今回の将来推計人口(出生中位・死亡中位)を基に、今後の日本経済の課題を確認してみたい。

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