金融経済イニシアティブ

山本謙三のコラム・オピニオン

山本謙三による金融・経済コラムです。

過去2度にわたり、市区町村別にみた産業別の従事者1人当たり付加価値額(以下「1人当たり付加価値額」)を確認してきた(2022年9月「全国2位は東京都境界未定地域-地方圏をリードする製造業、民間研究機関」、同11月「農林漁業、宿泊業で高付加価値を誇る市町村は?」)。

 

付加価値とは、企業や事業所の売り上げから原材料費や減価償却を差し引いたものをいい、この中から従業員の給与が支払われ、残りが利益となる。これを事業従事者数で割った「従事者1人当たりの付加価値額」が、いわゆる労働生産性だ。

 

最終回となる今回は、情報通信業、製造業の動向を取り上げたい。データは、いずれも2016年「経済センサス―活動調査」による。

金融正常化には程遠い「長期金利の変動幅拡大」 ~常識では計り難い「日銀の説明」を考える

2022.12.28

さる12月20日、日本銀行は、長期金利の変動幅を「±0.25%」から「±0.5%」に拡大した。その理由を、公表文は以下のように述べる。

 

「緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図り、より円滑にイールドカーブ全体の形成を促していくため、長短金利操作の運用を一部見直す」

 

「より円滑なイールドカーブの形成を促す」ではない。「より円滑に(形成を)促す」である。

 

「より円滑に促す」という表現を、筆者は見たことも聞いたこともない。「促す」主体は日銀自身なので、「円滑かどうか」は日銀内部の問題である。だが、公表文に自省の言葉はない。

 

単なる日本語の誤りのようにもみえる。しかし、公表文の主文である。日銀独自の言い回しと思惑があるのだろう。公表文全体を仔細に点検すると、「市場機能」という用語も特異な定義に基づくことが分かる。

 

多くのメディアが今回の措置を「金融正常化への第一歩」と報じたが、それは常識に基づく解釈だ。いまの日銀のロジックは、常識では計り難い。金融の正常化は、はるかに遠い。

物価目標「2%」の見直しはなぜ必要なのか ~米国の現実を直視せよ

2022.12.01

1990年代以降、物価目標政策(インフレ・ターゲティング)を採用する国が増え、2010年代には多くの中央銀行が2%の物価目標を掲げるようになった。「物価目標2%はグローバルスタンダード」と言われる所以(ゆえん)である。

 

日本銀行も、2013年1月にコア消費者物価の前年比2%を目標とする「物価安定の目標」を導入した。さらに同年4月の異次元緩和では、「(2%を)安定的に持続するために必要な時点まで(これを)継続する」とした。

 

その後9年半が過ぎたが、今も異次元緩和は続いている。物価目標政策は日本だけがうまく機能していないかのように言われるが、そうではない。最近の世界的な物価高騰は、同政策が海外でも期待したようには機能していないことの表れである。

 

9月のコラムで、従事者一人当たり付加価値額の高い市区町村を確認した(2022年9月「地域と付加価値(1/3):全国2位を誇る「東京都境界未定地域」とは」参照)。2016年「経済センサスー活動調査」に基づく結果である。

 

付加価値とは、企業や事業所の売り上げから原材料費や減価償却を差し引いたものをいい、この中から従業員の給与が支払われ、残りが利益となる。これを事業従事者数で割った「従事者一人当たりの付加価値」が、いわゆる労働生産性だ。

 

以下、産業別にみた市区町村別の従事者一人当たり付加価値額(以下「一人当たり付加価値額」)をみてみよう。

 

なぜ日銀はここへきて「賃金」を持ち出すのか ~繰り返される異次元緩和の「新たな説明」

2022.10.03

「物価対策」といえば、通常は物価上昇を抑制する政策を思い浮かべるだろう。しかし、今回の政府・日本銀行による「物価対策」は逆だ。超金融緩和の継続と巨額の財政支出の組み合わせは、需要を維持し、物価の上昇を促す政策にほかならない。

 

給付金や補助金の対象とならない家計や企業にとっては、物価の上昇と将来の増税のダブルパンチとなる。一つの政策判断ではあるが、なぜこうした判断に至ったかの説明は明確でない。

 

日銀は、値上げ許容度発言を撤回し、最近では政府とともに円買い介入も実施している。それでも、異次元緩和は続けている。ロジックを読み解くのは難しい。

地域と付加価値(1/3):全国2位を誇る「東京都境界未定地域」とは ~地方圏をリードする製造業、民間研究機関の所在地域

2022.09.01

前回、地方創生の実現には、地元産業が大都市圏並みの所得を稼ぎ出すことが必須と述べた(2022年8月「早くも東京に戻り始めた人口」参照)。一つの成功例を一般化して地方全体に当てはめるのでなく、各地域のどの特性にどのような競争力があるかを見極めることが重要だ。

 

以下、総務省「経済センサス―活動調査」の地域、産業別データを用いて、各地の付加価値生産の現状を確認してみよう。

 

付加価値とは、企業や事業所の売り上げから原材料費や減価償却を差し引いたものをいい、その中から従業員に給与が支払われ、残りが利益となる。いわゆる「労働生産性」とは、付加価値額を事業従事者数で割った値(「従事者一人当たりの付加価値額」)である。

早くも東京に戻り始めた人口 ~「テレワーク移住等で東京一極集中に是正の兆し」説は何だったのか

2022.08.01

本年1月末、2021年中の「人口移動報告」が公表され、東京23区が25年ぶりに人口流出超に転じた。コロナ禍をきっかけとするテレワークの普及もあり、「テレワーク移住等により、東京一極集中に是正の兆し」との解説記事が目立った。

 

それから半年。事態は一変し、東京23区は早くも流入超のトレンドに回帰している。コロナ情勢の急変で再び行動制限が課されるようなことがなければ、本年は2000年に近い流入超数を取り戻すだろう(参考1)。

 

「テレワーク移住等で、東京一極集中に是正の兆し」との見方は、幻想だった。テレワーク移住といった単発のエピソードを、人口移動全体に当てはめてはならない。

先月、岸田文雄内閣が今年度の「骨太の方針」を決定した。方針策定の過程では、安倍晋三元首相から批判的な意見が寄せられたと報じられている。しかし、当事者の意見の中にも「アベノミクス・異次元緩和」のパフォーマンスに関する錯覚が多い。

 

「デフレ脱却に大きな効果があった」

 

「アベノミクス・異次元緩和」の成果として最も強調されてきたのが、「デフレ脱却に大きな効果があった」だろう。

なぜ地銀の貸出金利は極度の低下が続くのか ~気が付けば 「市場経済からの離反」

2022.06.02

地方銀行の貸出金利が、特異な低下を示している。

 

新規の短期貸し出しと長期貸し出しの加重平均金利である貸出約定平均金利(総合)は、都市銀行と同水準まで低下した。日本銀行のデータ検索サイトで遡及可能な1994年以降、初めてのことだ。このうち長期貸し出しの金利は、昨年秋以来、ほとんどの月で都銀を下回っている。

 

都地銀の経費率や貸出先の信用リスクの差を踏まえれば、両業態の新規の貸出約定平均金利(以下、「貸出金利」)が肩を並べるのは、尋常でない。なぜ、こうした事態が起きているのか。その意味するところは、何か。

消費者物価(生鮮食品を除く総合)が、4月にも前年比2%台に達する可能性が出てきた。世界的な資源価格や穀物価格の高騰が、国内にも波及している。為替市場では、内外金利差の拡大を背景に円安が進む。

 

それでも日本銀行は、異次元緩和継続の姿勢を崩さない。①物価のプラス幅はいずれ縮小すること、②円安は日本経済にとって全体としてプラスであること――を理由とする。

 

為替相場に関する日銀の見解は、「経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい」というものだ(4月28日黒田東彦総裁記者会見)。

 

これに「円安は全体としてプラス」との主張を重ねれば、日銀は足元の円安進行をおおむね「ファンダメンタルズに沿った動き」と見なしているということだろう。そうでなければ、辻褄が合わない。

 

しかし、円の実質実効為替レートは、1971年末以来の円安水準だ。本当にファンダメンタルズに沿った動きと言えるか。為替相場を規定する「経済のファンダメンタルズ」とは何か。「円安が日本経済にとってプラス」は、本当か。

(注)「実質実効為替レート」とは、相対的な通貨の実力を図るための総合的な指標。相手国・地域の貿易額で加重平均した「名目実効為替レート」に、内外の物価変動率格差を控除して算出した指数。

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