なぜ個人消費は低迷するのか ~貯蓄を増やし続ける高齢者
2021.12.01経済学の学説に「ライフサイクル仮説」がある。一生涯を通じてみると、現役の間は所得の一部を貯蓄に回し、引退後は貯蓄を取り崩して消費に充てる、というものである。貯蓄は将来の消費のため、というわけだ。
きわめて自然な考え方にみえるが、実際には、日本の高齢層は引退後も貯蓄を増やし続けている。あくまで「世帯平均」の話だが、どうしてこうなるのだろうか。
山本謙三による金融・経済コラムです。
経済学の学説に「ライフサイクル仮説」がある。一生涯を通じてみると、現役の間は所得の一部を貯蓄に回し、引退後は貯蓄を取り崩して消費に充てる、というものである。貯蓄は将来の消費のため、というわけだ。
きわめて自然な考え方にみえるが、実際には、日本の高齢層は引退後も貯蓄を増やし続けている。あくまで「世帯平均」の話だが、どうしてこうなるのだろうか。
これからの25年は「人手不足の時代」だ。前回まで、労働力の増加を期待できるカテゴリーとして、女性と高齢者の動向をみてきた。残るカテゴリーは、外国人だ。
日本の労働市場は、すでに外国人に多くを依存している。今後も一層依存は高まるだろう。しかし、これまでの国の対応は後追い的だったようにみえる。
今後期待どおりに外国からの労働力が増える場合、快く働き、生活してもらえるだけの柔軟性が日本の社会にあるだろうか。
前回、労働力の「自然減」は今後25年間で全体の約2割に達し、「社会増」で打ち返すのが難しくなると述べた。理由は、①生産年齢人口(15~64歳)の減少加速と、②高齢人口のスローダウンである。少子化の影響は、ついに高齢人口にも及んでくる。
ただし、総人口の減少とともに総需要も縮小するので、「自然減」をすべて埋めなければならないわけではない。問題は、労働力の減少スピードが総人口の減少を凌駕し、労働供給力の縮小が需要を上回る速さで進むことだ。この結果、人手不足が深刻になる。
では、どれほどの「社会増」と「生産性向上」があれば、私たちは子や孫の世代に豊かな社会を引き継ぐことができるだろうか。簡単に試算してみよう。
「人口動態と労働市場」の第3回として、高齢者の労働参加をみてみよう。高齢の就業者は、近年着実に増えてきた。しかし、長寿に見合った増え方だったかといえば、そうではない。寿命の伸びが、働く期間の延びを凌駕してきた。
生産年齢人口(15~64歳)の減少スピードは、今後一段と加速する。高齢人口の増加スピードも、大幅に鈍る。これまで女性、高齢者の就労増で人手不足を回避してきた日本経済だったが、この姿は続かない。
生産年齢人口が減少に転じて25年。いよいよ「本当の人口オーナス」が始まる。
「人口動態と労働市場」の2回目として、女性就業者の現状と先行きをみてみたい。
1990年代半ば以降の労働市場の特徴は、女性就業者の大幅増加にあった。95年から2020年の25年間に、男性の就業者は134万人減った。対照的に、女性の就業者は354万人増えた。就業者全体に占める女性の比率は、20年時点で44%まで上がっている。
今回から「人口動態と日本経済」の第2シリーズとして、「人口動態と労働市場」をお届けする。
すでに述べたように、働き手の中心となる生産年齢人口(15~64歳)は、今後年率1%程度のスピードで減少していく。実質成長率や国民1人当たり実質成長率を維持するには、①就業者の増加と②労働生産性の向上が欠かせない。
就業者の増加を期待できるのは、女性、高齢者、外国人の3つのカテゴリーだ。それぞれの現状評価に先立ち、第1回の本稿では、生産年齢人口の減少が労働力にどれほどのインパクトをもつかを確認してみよう。
前回まで述べたように、今後の日本経済にとっては、①就業者の拡大と②労働生産性の向上が最大の課題となる(末尾関連コラム参照)。人手不足がいよいよ深刻になるからだ。
日本の労働生産性は、先進国の中にあって低い。しかし、その解釈や理由は人によりまちまちだ。
例えば、安倍前政権の誕生以前は、長引くデフレが生産性の向上を阻害しているとの見方があった。アベノミクスは、金融政策、財政政策、規制改革の組み合わせで、生産性の向上をもくろんだ。しかし、労働生産性はアベノミクス下でさらに一段と低下した。
生産性の動向は、人口動態や産業構造の変化を抜きには語れない。
前回、就業人口と総人口のバランスを維持するには、70歳代半ばまで働く必要があると述べた。
今回は、少し別の角度から確認してみたい。過去、日本人が一生のうちどの程度の期間を勤労に割り振っていたかを試算してみる。改めて分かるのは、今の日本人がいかに長生きする社会に生きているかだ。
参考1は、100年前、50年前、2019年の3時点をとり、日本人が「一生(参考1のD)」のうち何割を「働く年数(同B)」に充ててきたかを試算したものだ。引退時の年齢と同時点での平均余命の合算値を「一生の年数」としているので、平均寿命よりも長いことに注意を頂きたい。
日本銀行の金融政策が、とにかく分かりにくい。根っこにあるのは異次元緩和の変質だ。別次元に変わったといってもよい。それでも日銀は「これまでの政策は適切に機能している」と述べるばかりだ。
中央銀行には、得られた知見や理解を国民や学界に正しく伝える責任がある。今のままでは、説明責任は果たされない。政策が適切かどうかも分からない。
異次元緩和の変質を端的に表すのが、物価目標へのコミットメントだ。当初は「2年以内に物価目標2%の達成」を掲げ、「施策の逐次投入はせず、必要な施策をすべて講じる」と言い切った。
しかし、コミットメントは受動型に転換した。本年4月時点の物価見通しは、2023年度でも前年比1%にとどまり、目標に達しない。それでも追加の緩和措置を講じない。「必要な施策をすべて講じる」とした当初の姿勢とは、雲泥の差がある。
生産年齢人口(15~64歳)の減少は、経済活動を供給面から制約する。今後就労人口が減っていけば、プラス成長の維持も容易でなくなる。人口が減少する社会では、やむをえない。
「実質経済成長率」のプラス、マイナスよりも、今後は国民の豊かさをあらわす「国民一人当たりの実質経済成長率」を維持することの方が、重要になる。「一人当たり」ならば、分子と分母が同時に減るので、一見すると問題ないようにみえる。
しかし、そうではない。生産年齢人口が、総人口を上回るスピードで減少する。少ない人口で生み出すパイを、多くの人口で分かち合わねばならない。一人の取り分が減る。「国民一人当たりの実質経済成長率」も低下する可能性が高い。