人口構成と日本経済(3/5) 世界を圧倒した長寿化スピード
2021.05.06前回述べたように、日本の人口ピラミッドが「脚の長い凧形」に向かうのは、少子化と長寿化の結果である。少子化がピラミッドの下方をスリムにし、長寿化が全体の形状を縦長にする。
世界に冠たる長寿化スピード
参考は「平均寿命の国際比較」である。折れ線は、主要国の男女別平均寿命の推移をあらわす。
山本謙三による金融・経済コラムです。
前回述べたように、日本の人口ピラミッドが「脚の長い凧形」に向かうのは、少子化と長寿化の結果である。少子化がピラミッドの下方をスリムにし、長寿化が全体の形状を縦長にする。
参考は「平均寿命の国際比較」である。折れ線は、主要国の男女別平均寿命の推移をあらわす。
前回述べたように、日本の人口ピラミッドは「脚の長い凧形」に向かう。少子化と長寿化の結果だ。少子化がピラミッドの下方をスリムにし、長寿化が全体の形状を縦長にする。
両者は本来独立した事象だが、実際には、長寿化を可能にした社会制度が少子化を加速させている。少子化に歯止めをかけるには、社会を貫くパラダイムの転換が必要だ。
参考1は、前回示した人口ピラミッドの再掲である。日本の人口は、将来、右図(2065年)のような「脚の長い凧形」となる。しかも、その後も延々と続く。そうなる理由は、左図(2015年)のピラミッドにすでに暗示されている。
地方の人口減少を受け、「東京圏vs.地方圏」の対立軸がしばしば持ち出される。しかし、これは将来の日本経済の主題ではない。そもそも地方消滅論自体が、誤解を招きやすいものだった。
根拠とされたのは、20~39歳の女性の数が2040年までに地方で大幅に減るという試算だった。しかし、試算をさらに先まで延長すれば、東京圏でも同じ事態が起きる結果になっただろう。地方消滅とみえた事態は、日本全体の人口減少の過渡的な現象にすぎない。
東京一極集中論もミスリーディングだ。実際に起きているのは、東京一極集中というよりも、大阪市や札幌市、福岡市を含む狭い圏域への人口凝縮だ。これも人口減少に伴う労働力不足の反映である。
人口減少は、日本全国あまねく直面する問題だ。日本経済の真の課題は、①深刻化する労働力不足をどのようにして緩和するかと、②労働力不足という現実をふまえ、経済社会をどう変革し、世界の中で生き抜いていくかである。
当コラムでは、これまで人口動態の問題を繰り返し取り扱ってきた。今回これを総括し、改めて日本経済への処方箋を考えてみたい。数本のシリーズ(各5回程度)、毎月2回程度の掲載を予定している。第1シリーズは「人口構成と日本経済」である。
日本銀行は、今月半ばの金融政策決定会合で「施策の点検」の結果を公表する。点検の目的は「より効果的で持続的な金融緩和を行うため」とする。これまでの施策の効果と副作用の点検が、中心になるだろう。
副作用は、広範かつ多岐にわたる。日銀自身がすべてを認めているわけではないが、副作用には①金融機関収益への圧迫、②市場機能の低下、③資産価格の高騰、④成長性の低い企業の温存(新陳代謝の阻害)、⑤財政規律の弛緩などがある。
ただし日銀は、金融政策の基本的な枠組みは変えないと言明している。すなわち、マイナス金利やイールドカーブ・コントロールといった大枠組みには手を付けることなく、副作用に対処しようというものだ。しかし、それは不可能である。副作用は異次元緩和と不可分一体だからだ。
今回「副作用への対処策」と称するものが出てくるとしても、真の解決には程遠い。むしろ一時的、表面的な対処にとどまることが危惧される。
2020年の「住民基本台帳・人口移動報告」(総務省)が公表された。
昨年来注目を集めてきたのは、コロナ禍で5月以降、東京都が人口流出超に転じたことだった。しかし、人口流出入の規模は、進学、就職期の3、4月でほとんどが決まる。昨年も1年を通してみれば、東京都は3.8万人の流入超だった(日本人移動者、以下同じ)。
東京圏1都3県をみても、9.8万人の流入超である。流入超幅は、前年に比べ縮小したとはいえ、地方創生の開始前(2013年)をさらに上回る高水準にある。
大都市圏への人口移動は、景気の好調時に加速し、停滞時に鈍化する傾向がある。今回もこれに沿う動きだ。コロナ禍に伴うテレワークで、東京など大都市圏からの移住が増えたとの見方があるが、現時点ではインパクトは限られるだろう。
むしろ気になるのは、愛知県が人口流出超に転じたことだ(日本人移住者、参考1参照)。外国人を含む移動者全体では、2年連続の転出超となる。これにも「コロナ下でのテレワーク普及により、県外への移住が進んだ」との記事があったが、的外れだろう。変化の兆しは、すでに2,3年前から表れていたからだ。
流出超の直接的な理由は、製造業の雇用減である。しかし、他の大都市、とりわけ大阪市などと比べれば、名古屋市における女性の雇用吸収力の弱さが目立つ。若年女性を名古屋市が受け入れきれず、県外に流出する構図にある。
東日本大震災の発生から、10年が過ぎようとしています。
筆者は、当時日本銀行本店に勤務し、災害対策室を統括する立場にありました。
本稿は、その経験を基に日銀の旧友(OB・OG)向けに書いた原稿に筆を加え、再構成したものです。内容とデータは、震災後に日銀が公表した論文「東日本大震災における我が国決済システム・金融機関の対応」(2011年6月、日本銀行決済機構局)を参照しています。
文責はすべて筆者にあります。
昨年11月の完全失業率(季節調整後)が、前月の3.1%から2.9%に低下した。
コロナ禍以前の2.2%(2019年12月)には及ばないものの、2%台の完全失業率は歴史的にみてほぼ完全雇用の状態を示す(参考1参照)。
しかし、実態はかなり異なる。女性や高齢者の「労働力人口比率(労働力率)」の上昇テンポが急速に鈍化しているからだ。労働市場に参入するはずだった女性や高齢者の多くが、「完全失業者」にカウントされないまま、市場の外にとどまっている。
雇用情勢はまだまだ楽観できない。
菅首相が、不妊治療への保険適用に意欲を示している。
政府はこれまでも、待機児童ゼロ対策など、多くの少子化対策を打ち出してきた。しかし、従来の議論には大事なピースが欠け落ちている。誰が費用を負担するか、である。
少子化問題は、要は、人口構成のバランスの問題だ。経済社会の観点でいえば、年少人口の減少と高齢人口の増加の問題は一対で考えられなければならない。
日本は、韓国などと並んで、高齢者比率がとくに高まる国だ。高齢層以外に、少子化対策の費用を負担できる層はいない。その現実を直視しなければ、少子化対策を打とうとしても、ただちに財政の壁にぶつかることになる。
異次元緩和の開始から7年半、マイナス金利の導入から5年弱、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の実施から4年が過ぎた。銀行はいよいよ苦境に立たされている。
考えてみれば、当たり前だ。預金金利はゼロ%に張り付く。一方、リスクフリー・レートである国債(10年以下)の市場利回りは、5年近くゼロ近傍にある。負債と資産の金利が同一水準(ゼロ%)であれば、収益をあげるどころか、経費も賄えない。
国債に投資するならば、少しでもプラスの金利のつく超長期債しかない。実際、地域金融機関ではデュレーションの長期化が進む。
しかし、期間が長くなるほど、金利リスクは高まる。もし日本銀行の物価目標(2%)が達成され、国債利回りも2%上昇すれば、20年物国債の市場価格は3割強下がる。超長期債に多額を投資するわけにはいかない。
7月、東京圏の人口移動が流出超に転じた。3月まで大幅な流入超だっただけに、劇的な変化である。
早速、コロナ下でのテレワーク増加が理由とする記事も見受けられる。しかし、さすがに無理がある。人口流出超への転化は、もっぱら景気の悪化が原因だ。