人口動態と労働市場(2/5) 女性の就業増で人口減少のインパクトを補える時代は終わった
2021.08.02
「人口動態と労働市場」の2回目として、女性就業者の現状と先行きをみてみたい。
1990年代半ば以降の労働市場の特徴は、女性就業者の大幅増加にあった。95年から2020年の25年間に、男性の就業者は134万人減った。対照的に、女性の就業者は354万人増えた。就業者全体に占める女性の比率は、20年時点で44%まで上がっている。
山本謙三による金融・経済コラムです。
「人口動態と労働市場」の2回目として、女性就業者の現状と先行きをみてみたい。
1990年代半ば以降の労働市場の特徴は、女性就業者の大幅増加にあった。95年から2020年の25年間に、男性の就業者は134万人減った。対照的に、女性の就業者は354万人増えた。就業者全体に占める女性の比率は、20年時点で44%まで上がっている。
今回から「人口動態と日本経済」の第2シリーズとして、「人口動態と労働市場」をお届けする。
すでに述べたように、働き手の中心となる生産年齢人口(15~64歳)は、今後年率1%程度のスピードで減少していく。実質成長率や国民1人当たり実質成長率を維持するには、①就業者の増加と②労働生産性の向上が欠かせない。
就業者の増加を期待できるのは、女性、高齢者、外国人の3つのカテゴリーだ。それぞれの現状評価に先立ち、第1回の本稿では、生産年齢人口の減少が労働力にどれほどのインパクトをもつかを確認してみよう。
前回まで述べたように、今後の日本経済にとっては、①就業者の拡大と②労働生産性の向上が最大の課題となる(末尾関連コラム参照)。人手不足がいよいよ深刻になるからだ。
日本の労働生産性は、先進国の中にあって低い。しかし、その解釈や理由は人によりまちまちだ。
例えば、安倍前政権の誕生以前は、長引くデフレが生産性の向上を阻害しているとの見方があった。アベノミクスは、金融政策、財政政策、規制改革の組み合わせで、生産性の向上をもくろんだ。しかし、労働生産性はアベノミクス下でさらに一段と低下した。
生産性の動向は、人口動態や産業構造の変化を抜きには語れない。
前回、就業人口と総人口のバランスを維持するには、70歳代半ばまで働く必要があると述べた。
今回は、少し別の角度から確認してみたい。過去、日本人が一生のうちどの程度の期間を勤労に割り振っていたかを試算してみる。改めて分かるのは、今の日本人がいかに長生きする社会に生きているかだ。
参考1は、100年前、50年前、2019年の3時点をとり、日本人が「一生(参考1のD)」のうち何割を「働く年数(同B)」に充ててきたかを試算したものだ。引退時の年齢と同時点での平均余命の合算値を「一生の年数」としているので、平均寿命よりも長いことに注意を頂きたい。
日本銀行の金融政策が、とにかく分かりにくい。根っこにあるのは異次元緩和の変質だ。別次元に変わったといってもよい。それでも日銀は「これまでの政策は適切に機能している」と述べるばかりだ。
中央銀行には、得られた知見や理解を国民や学界に正しく伝える責任がある。今のままでは、説明責任は果たされない。政策が適切かどうかも分からない。
異次元緩和の変質を端的に表すのが、物価目標へのコミットメントだ。当初は「2年以内に物価目標2%の達成」を掲げ、「施策の逐次投入はせず、必要な施策をすべて講じる」と言い切った。
しかし、コミットメントは受動型に転換した。本年4月時点の物価見通しは、2023年度でも前年比1%にとどまり、目標に達しない。それでも追加の緩和措置を講じない。「必要な施策をすべて講じる」とした当初の姿勢とは、雲泥の差がある。
生産年齢人口(15~64歳)の減少は、経済活動を供給面から制約する。今後就労人口が減っていけば、プラス成長の維持も容易でなくなる。人口が減少する社会では、やむをえない。
「実質経済成長率」のプラス、マイナスよりも、今後は国民の豊かさをあらわす「国民一人当たりの実質経済成長率」を維持することの方が、重要になる。「一人当たり」ならば、分子と分母が同時に減るので、一見すると問題ないようにみえる。
しかし、そうではない。生産年齢人口が、総人口を上回るスピードで減少する。少ない人口で生み出すパイを、多くの人口で分かち合わねばならない。一人の取り分が減る。「国民一人当たりの実質経済成長率」も低下する可能性が高い。
前回述べたように、日本の人口ピラミッドが「脚の長い凧形」に向かうのは、少子化と長寿化の結果である。少子化がピラミッドの下方をスリムにし、長寿化が全体の形状を縦長にする。
参考は「平均寿命の国際比較」である。折れ線は、主要国の男女別平均寿命の推移をあらわす。
前回述べたように、日本の人口ピラミッドは「脚の長い凧形」に向かう。少子化と長寿化の結果だ。少子化がピラミッドの下方をスリムにし、長寿化が全体の形状を縦長にする。
両者は本来独立した事象だが、実際には、長寿化を可能にした社会制度が少子化を加速させている。少子化に歯止めをかけるには、社会を貫くパラダイムの転換が必要だ。
参考1は、前回示した人口ピラミッドの再掲である。日本の人口は、将来、右図(2065年)のような「脚の長い凧形」となる。しかも、その後も延々と続く。そうなる理由は、左図(2015年)のピラミッドにすでに暗示されている。
地方の人口減少を受け、「東京圏vs.地方圏」の対立軸がしばしば持ち出される。しかし、これは将来の日本経済の主題ではない。そもそも地方消滅論自体が、誤解を招きやすいものだった。
根拠とされたのは、20~39歳の女性の数が2040年までに地方で大幅に減るという試算だった。しかし、試算をさらに先まで延長すれば、東京圏でも同じ事態が起きる結果になっただろう。地方消滅とみえた事態は、日本全体の人口減少の過渡的な現象にすぎない。
東京一極集中論もミスリーディングだ。実際に起きているのは、東京一極集中というよりも、大阪市や札幌市、福岡市を含む狭い圏域への人口凝縮だ。これも人口減少に伴う労働力不足の反映である。
人口減少は、日本全国あまねく直面する問題だ。日本経済の真の課題は、①深刻化する労働力不足をどのようにして緩和するかと、②労働力不足という現実をふまえ、経済社会をどう変革し、世界の中で生き抜いていくかである。
当コラムでは、これまで人口動態の問題を繰り返し取り扱ってきた。今回これを総括し、改めて日本経済への処方箋を考えてみたい。数本のシリーズ(各5回程度)、毎月2回程度の掲載を予定している。第1シリーズは「人口構成と日本経済」である。
日本銀行は、今月半ばの金融政策決定会合で「施策の点検」の結果を公表する。点検の目的は「より効果的で持続的な金融緩和を行うため」とする。これまでの施策の効果と副作用の点検が、中心になるだろう。
副作用は、広範かつ多岐にわたる。日銀自身がすべてを認めているわけではないが、副作用には①金融機関収益への圧迫、②市場機能の低下、③資産価格の高騰、④成長性の低い企業の温存(新陳代謝の阻害)、⑤財政規律の弛緩などがある。
ただし日銀は、金融政策の基本的な枠組みは変えないと言明している。すなわち、マイナス金利やイールドカーブ・コントロールといった大枠組みには手を付けることなく、副作用に対処しようというものだ。しかし、それは不可能である。副作用は異次元緩和と不可分一体だからだ。
今回「副作用への対処策」と称するものが出てくるとしても、真の解決には程遠い。むしろ一時的、表面的な対処にとどまることが危惧される。