最寄り駅からジャカルタへ
2019.10.16
私が日ごろ利用するJRの最寄り駅には、ときどき20人ほどの鉄道ファンが集まってくる。
観察すると、金曜の朝方に多いようだ。
カメラ片手に、脚立持参の者もいる。
私は彼ら(彼女ら)を横目に通勤電車に乗ってしまうので、何を目当てに集まるのかは分からない。
気になって、帰宅後、家族にも話していた。
キハとかモハとか
ある日、たまたま妻と同じ電車に乗る機会があり、その光景を目撃した。
私「ほら、あれがいつか話していた「鉄っちゃん」たちだ」
妻「なるほど。で、何が目当てか、分かったの?」
私「いや、それは知らん。駅の近くに車両センター(車両基地)があるから、そこから何か出てくるんじゃないか?」
「ふ~~ん」と生返事をしながら、妻はすたこら鉄っちゃんたちに向かう。
さっそく人のよさそうな青年を呼び止めて、なにやら尋ねている。青年は、食い下がられて、たじたじの様子。
しばらくして、妻が戻ってきた。
妻「分かった」
私「何が分かった?」
妻「いや、何を待っているのか、分からないことが分かった。」
私「ん?なんだ、それ?」
妻「いや、尋ねたら、「自分もよく分からないんだ」と言うんだ」
私「ははは、適当にあしらおうとしたわけだ」
妻「そこで、私も、キハとかモハみたいなものかと、食い下がってみた」
私「お~、唯一の知識を披露したな」
妻「それでも、「自分も本当に知らないんだ」と答えるんだ」
私「ん?」
妻「当人いわく、自分もSNSの情報を見てきただけだという。」
私「どんな?」
妻「今日、何かの列車がここを通るらしい、と」
私「で?」
妻「だからここへ来たと。本当になにが来るか、当人も知らんようだ。」
私「ふむ。」
妻「空振りの日もあるらしい」
私「そりゃ、超~ヒマだな」
妻「ん~~、ていうか、私としては、気になるのに当人たちに聞きにいかない貴方の方が、どうかと思いますがね。」
私「む。。。」
JAKARTA行き
その後も、駅でときどき同様の光景を目撃した。
サラリーマンでなくなった私は、ある日決心して、何が来るかをそのまま待ってみることにした。
いつもの通勤列車をやり過ごし、ベンチに腰をおろす。
だが、こちらはスーツ姿だ。
ベンチで日刊紙を広げ、人を待つ風を装いながら、鉄ちゃんたちの様子を観察する。
このあたりは、自分でも、ちょっと情けない気がするが。。。
次第に、集まってくる鉄道ファンが増えてくる。私も、そっとスマホを取り出し、カメラ機能を点検する。
何台もの普通列車を見送ったのち、突然、警笛を鳴らして列車が近づいてくる。
ややや。
ほほぅ。
先頭は機関車か。別の車両をけん引しているようだ。古い車両の回送にちがいない。
見ていると、鉄っちゃんたちが最後尾にまわり、一斉に写真を撮っている。
私も、おもむろにベンチを立ち上がり、早足で最後尾にかけつける。
お、お、お~~。ジャカルタ行きか。
JAKARTAとも書いてあるぞ。よく見ると、絵柄もついている。
いやぁ、これがジャカルタ行きかぁ。
噂には聞いていたが、これがそうか。
感動するなぁ。
JRは利用済みの車両をインドネシアに譲渡しているという。車両は、彼の地の通勤列車として再び活用される。
その列車を出港地まで機関車でけん引して、船で運び出すのだろう。
「ジャカルタ / JAKARTA」の行き先表示は、JRの粋な計らいか。
絵柄は第二の就職先へのはなむけというわけだ。
高齢者の仲間入りした私の境遇とも重ね合わせ、頑張れ!と声をかけたくなる。
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それにしても、ジャカルタ行きとは感動するなぁ。
それもこれも、すべて1時間近く待った私の成果である。
自分で自分をほめてやりたい。
ん? いや、待てよ。。。
「超~ヒマ」なのは、鉄っちゃんたちでなく、私の方か。。。
(イラスト:鵜殿かりほ)