パリ=シャルル・ド・ゴール空港を2.5周する
2020.03.16バーゼルは、スイス、フランス、ドイツ3国の国境に位置する街だ。
日本から行くには、①フランクフルト経由で列車か飛行機、②パリ経由で飛行機、③チューリッヒ経由で列車——の3通りがある。
中央銀行の集まりは、国際決済銀行(BIS)の本拠地バーゼル(スイス)で行われることが多い。
20年ほど前のこと。
その日は、パリ経由、全日空(成田‐パリ) / エールフランス(パリ‐バーゼル)便を予約していた。ただ、両者は異なるエアアライアンス(航空連合)なので、パリでターミナルを移動しなければならないのが厄介だった。
0 → 0.5周
わずか1泊の出張だった。
しかし、持参する書類が多く、大型のスーツケースを抱えていた。
成田でチェックインしようとすると、「スーツケースはいったんパリ止めとし、パリでもう一度手続きをしてほしい」といわれる。
エールフランスがストライキを準備中で、パリ‐バーゼル便がどうなるか分からないという。おとなしく従う。
しかし、パリに向かうフライトが遅れに遅れた。乗り継ぎぎりぎりのタイミングだ。
着陸直前、乗務員から「到着後、ただちにターミナルを移動してほしい」といわれる。スーツケースは、あとから届けてくれるという。
着陸後、ダッシュして入国審査を通過し、ターミナルの巡回バスにとび乗る。
シャルル・ド・ゴール空港は広い。半周するだけでも時間がかかる。
焦る。
ところが、エールフランスのターミナルに着くと、辺りは閑散としている。
ん?
職員をつかまえて聞くと、「エールフランスはスト決行中、バーゼル便は飛ぶ見込みがない」と。
それは困る、
私は明朝8時から仕事があるのだ。。。
いや、待てよ、それよりも、だ。
私のあのスーツケースは一体どうなる?
もともと1泊だけの旅程だ。今日バーゼル便が飛ばないとすると、明日以降にホテルに届けてもらっても、私には回収する術がない。
どうする?
0.5 → 1.0周
巡回バスに再びとび乗る。
再度、全日空のターミナルへ。
外から様子を窺うと、ターンテーブルにはまだ成田発の荷物がいくつか残っているようだ。ガラス越しに偵察する。
あった、あった!たしかに私のスーツケースがそこにある。よし、よし。
だが。。、
私はいったんターミナルの外に出た身だ。Baggage Claimに入ることができない。
Baggage Claimの警備員をつかまえ、一所懸命説明するが、らちが明かない。
「あれあれ、あのスーツケース」、「それそれ、それです」、「そやから、あれですねん」手振り、身振り、方言を交えて説得するが、中に入れてくれない。
困った。
押し問答の末、半ば強引に説き伏せる。
テロ警戒の厳しい今であれば、撃たれかねないところである。
なにはともあれ、スーツケースを回収できた。
さて、これからどうする?
1.0 → 1.5周
再び巡回バスに乗る。またエールフランスのターミナルへ。
ターミナルは依然閑散としていたが、相談窓口だけは長い行列ができていた。待つこと45 分近く。
ようやく順番が回ってきた。
私「明日の朝8時までにバーゼルに行かなければならない。どうすればよいか?」
窓口の女性「Oh、貴方はとてもラッキーな方ね。私がうまい方法を教えてあげる」そう言って、彼女はやおら電話をかけ始める。
どうやらSNCF(フランス国鉄)に電話をかけてくれているらしい。電話を切ると、彼女はにこやかに航空券の上にメモ書きしてくれた。
<<パリ・リヨン駅午前1時発、バーゼルまで、寝台列車>>
女性「これを見せれば、大丈夫ネ、今予約しといたから」
おぉ、意外に親切ではないか。思わず感謝の言葉を述べる。
いや、いかん。
そもそも、ストライキをしているのは、そちらではないか。私が礼を述べねばならない理由は断じてない!
列を離れたあとで、再び気づく。
むむっ!? 私の予定は1泊だ。
明日にはバーゼルからパリに戻って、成田便に乗り継ぐ予定だ。だが、明日のバーゼル‐パリ便は飛ぶのか?
再び長い行列の最後尾に並ぶ。
ようやく順番がくる。くだんの女性が再びにこやかに対応してくれる。
私「明日バーゼルからパリに戻る予定だが、飛ぶ見込みはあるか?」
彼女「ムリ、おそらく(あっさり)」
が~~~ん。
1.5 → 2.0周
再び巡回バスの人となる。
こうなれば、パリ経由をあきらめ、フランクフルト経由で帰るしかない。
全日空のターミナルへ再び移動。
到着ターミナルは、ここにも長い行列ができていた。
30分ほど待って、翌日のフランクフルト‐成田便に空席があるかを尋ねる。
幸い1席空いていた。パリ‐成田便をフランクフルト‐成田便に変更して、なんとか帰りの便を確保。
ふ~助かった。これで準備万端だ、
いや待てよ、何か忘れてないか?
2.0 → 2.5周
ふたたび巡回バスの人となる。一体これで何周目だ?
スーツケースがだんだん重くなる。足取りもどんどんと重くなる。
エールフランスのターミナル。またまた行列に並ぶ。今度も30分近く待った。やっと順番が回ってきた。
私「明日のバーゼル発パリ便をキャンセルしたい(きっぱり)」
彼女「OK(あっさり)」
あ、そ。
その後
すでに4時間近くが経過していた。ようやくシャルル・ド・ゴール空港を離れられる。
タクシーでリヨン駅に向かう。駅のカフェで軽い夕飯をとり、列車に乗り込む。
海外で寝台車に乗るのは、初めてだ。
だが、バーゼルまでどれくらい時間がかかるのかを知らない。当時はスマホもない。携帯ももたない。
気が気でない。車掌のアナウンスに耳を傾け、停車するたびに窓から駅名を確認する。おかげでほとんど眠れない。
バーゼルにやっと到着したのは、午前5時だった。
少しでも早くホテルに向かいたい。幸いホテルは駅前で、近くに見える。プラットフォームを急ぐ。
だが、プラットフォームの先端に出入国審査場が!
えっ?なんだ??
あ、そうか。
バーゼルは、駅構内がフランス領とスイス領にまたがっているのか。
到着プラットフォームがフランス領、隣のプラットフォームがスイス領、その中間にあるのが出入国審査場というわけか。
たしかに、シャルル・ド・ゴールでいったんフランスに入国した覚えがあるぞ。
スイス側に出向くには、出国審査を受けなければならないのは道理だ。
ふ~む、感動するなぁ、、、って言ってる場合じゃない!急がねば(脚注)。
行列に並び、出入国の手続きをとる。
5時半、ようやくホテル着。とりあえず荷物を置く。が、もうひと仕事残っている。
駅にとって返し、6時オープンの窓口を訪ねる。夕刻のバーゼル発フランクフルト行きの特急券を手に入れるためだ。
ホテルに戻ったときは、すでに6時半になっていた。
やっとゆっくりできる、、ことはない。7時半前にはホテルをチェックアウトしなければならない。
なんせ、会議は8時に始まる。
ふ~~。
(脚注)その後、スイスはシェンゲン協定に加盟し、それまでEU各国との間にあった国境検査施設は廃止された。
(イラスト:鵜殿かりほ)