金融経済イニシアティブ

南米の時間はゆる~く流れる(全2回) ~その1・1986年ブラジル

2020.07.16

南米には、これまで数回出かけた。

 

ほとんどが昔の話であるし、南米各国をひとまとめに話すのは不適当だろう。

それでも、いつも感じるのは、時計の針の進み具合が少し違うことだった。

 

デノミネーション

 

1986年、NYからブラジルに出かけた。

当時、ブラジルは年率400%の超インフレにあえでいた。

 

 

これに対処しようと、政府はデノミネーション(通貨単位の変更)を実施した。

通貨を「クルゼイロ」から「クルザード」に変えた。

 

ちなみに、インフレはその後も続き、デノミは繰り返された。

90年代半ばに「レアル」が導入され、ようやく現在に至る。

 

86年に出かけたのは、デノミの現場をこの目で見ておきたかったからだ。

 

しかし、新たなクルザード紙幣の印刷はまったく間に合っていなかった。

 

クルザード紙幣と称するものは、従来の「100,000クルゼイロ紙幣」の表面に「100クルザード」のスタンプが押されているだけだった。

 

これでインフレが抑えられるとは、誰も思わなかったことだろう。

 

400%インフレ

 

年率400%のインフレとは、物価が毎月10%以上、上がることを意味する。

 

この物価のもとで生活をやり繰りするのは、たいへんだ。

現地で耳にしたのは、次のような話だった。

 

🔶給料日

給料は、原則月2回、現金で支払われる。

給料日の昼には、職場から人が消える。

みな、スーパーマーケットに出掛けてしまうからだ。

夕方まで待つと、値段が上がってしまう。

 

🔶トランシーバー

トランシーバーをもつ家庭が増えた(当時は携帯電話はまだない)。

夫婦で別々のスーパーに出かけ、トランシーバーで値段を確認し合いながら、安い方の店で買う。

今でいう価格比較サイトのリアル版か。

 

約束

 

現地の人物の紹介で、大統領の経済顧問を務める有力大学の経済学部長に、面談できることになった。

 

アレンジしてくれた人物と、面談時刻の20分前にホテルで待ち合わせをした。

 

しかし、約束の時間になっても、現れない。

面談時刻10分前になっても、姿を現さない。

 

焦る。。。

 

意を決して、一人でタクシーに乗り込む。

身振り手振りで、行き先を伝える。

大学構内でも、なかなか言葉が通じない。

面談の時刻を、10分ほどもオーバーしてしまった。

 

やっと学部長室を見つけだし、まずは到着の遅れを謝る。

しかし、先方はきょとんとしている。

 

ん? 気にしないでいてくれたのか?

ありがたい。。。

 

無事面談を終え、ホテルに戻ると、件(くだん)の人物がロビーで待っていた。

私を見つけるや否や、一言。

(彼)「随分早く出発してしまったようだね。」

(私)「ん?」

 

(あとで、改めて日程表を確認したが、面談時刻に関する私の記憶はやはり正しかった!)

 

 

南米の時間はゆる~く流れる。

気が付けば、結構気に入っていたりする自分がいる。

(その2に続く)

 

 

 

(イラスト:鵜殿かりほ)