地下鉄の、で、出口が。。。
2021.08.16子、曰く(いわく)
十有五にして学に志ざす。
30にして立つ。
40にして惑わず。
50にして天命を知る。
60にして耳順う(したがう)。
70にして心の欲するところに従えども、矩を踰えず(のりをこえず)。
続・論語
孔子の教えである。
孔子は、紀元前552年に生まれ、紀元前479年に74歳で没したとされる。
当時としては、かなりの長命だろう。
「70にして矩を踰えず」と悟ることができたのも、長生きのおかげである。
しかし、現代人はもっと長生きをする。
「70にして矩を踰えず」の先を考えなければならない。
私自身でいえば、次のようなところか。
80にして道迷う。
90にして妻、戸惑う。
100にして耳遠く。
110にして。。。
ふ~む、天命を知るどころではないな。
私のような凡人に、悟りは来ない。
東京メトロの出入場口
しかし、私の場合、「80にして道迷う」どころか、60代から東京メトロ(地下鉄)の駅構内でよく道に迷う。
例えば、神保町駅。
半蔵門線をおりて、JR御茶ノ水駅方面に向かう。
地下3階のプラットフォームからエスカレーターで地下2階に上がり、PASMO(ICカード)で出る。
御茶ノ水駅方面はA5の出口らしい。
入り組んだ通路を歩く。
A5に続く階段は地下1階からなので結構遠い。
階段で1フロア上がり、指示板に従い右手に曲り、さらに右手の改札口からPASMOで出る。
ん?待てよ、なんかヘンだ。。。
見回すと、目黒方面、西高島平方面の案内が。。。
ん?さらに周囲を見渡すと、都営地下鉄三田線の表示が。。。
あちゃ~。
いまのは出口でなくて、入口だったか。
たしかに、一度、出口を通り過ぎたような気が。。。
しかし、ゲートは入口、出口兼用だ。
こちらはほとんど無意識で行動しているわけだし。
こりゃ、間違えるわ。
ぶつぶつぶつ。。。。
窓口で事情を説明して、PASMOから入場記録を消してもらう。
出場して、見回すと、通路をはさんだ向かいにA5出口への階段があった。
三途の川
しかし、東京の地下鉄でよかった。
もし、これが人生の終着駅ならば、えらいコトだった。
******
長い旅路を終え終着駅に着いた私は、極楽方面の出口に向かう。
地下3階のプラットフォームからエスカレーターで地下2階に上がり、PASMO(ICカード)で出る。
極楽方面は、A5の出口らしい。
入り組んだ通路を歩く。
A5に続く階段は地下1階からなので結構遠い。
そうか、この通路が三途の川と呼ばれているのか。
川が干上がったのは、やはり地球温暖化のせいか。
階段で1フロア上がり、指示板に従い右手に曲り、さらに右手の改札口からPASMOで出る。
ん?待てよ。なんかヘンだ。。。
見回すと、地獄方面の案内が。
ん?さらに周囲を見渡すと、終末線の表示が。
あちゃ~。
いまのは出口でなくて、入口だったか。
たしかに、一度、出口を通り過ぎたような気が。。。
しかし、ゲートは入口、出口兼用だ。
こちらはほとんど呆けているわけだし。
こりゃ、間違えるわ。
ぶつぶつぶつ。。。。
事情を説明しようと、窓口の駅員に声をかける。
と、それは、なんと閻魔大王だった。
閻魔大王「ん?なんか用?」
私「は、はぁ、でも、なぜ大王様が窓口に?」
閻魔大王「ん、まぁ、色々あってな。働き方改革っていうのか。部下が後半休とって帰っちゃったんでな」
私「で、大王様みずから窓口に?それはそれは、心のお広いことで」
閻魔大王「おぉよ、昔から心が広いってことで、3年前、大王に推挙された」
私「はぁ、結構、民主的なんすね」
閻魔大王「ん?冗談だ。 で、なんか用?こっちは忙しいんだ」
私「あ、いえ、私、入口と出口を間違えちゃいましてね。もともとこちらに用はなかったんですが、間違って入ってきちゃったみたいで」
閻魔大王「ふん、素人でも、もすこしマシな言い訳を考えてくるぞ」
私「いやいや、言い訳でなく、ほんとうに」
閻魔大王「ふん、じゃ、証拠」
私「は?証拠?こんなもんに証拠なんかありませんよ。ほんとうに間違えちゃいまして」
閻魔大王「ふむ、どぅも信じられんな、ちょっと舌を見せてみろ」
私「えっ!? そ、そりゃ、ご勘弁を」
閻魔大王「じゃ、ダメ」
私「い、いや、そりゃないっすよ。こんな真実一路の人間に」
閻魔大王「どぅも、お前が言うとウソっぽいな、いいから舌を見せてみろ」
私「まさか、抜いたりしないでしょうね」
閻魔大王「そんな野蛮なこたぁしねぇよ。人権保護ってことで、2年前に禁止になった」
私「はぁ。。。まさかそれも「冗談だ」なんて言わんでしょうね」
閻魔大王「疑い深い奴だな。残念ながら、ほんとうだ」
私「よかった。じゃ、なぜ、舌を?」
閻魔大王「「舌は口ほどにモノを言い」といってな、お前のような口先三寸の奴はすぐ分かる」
私「どうも偏見が強いお方だ。じゃ、お言葉を信じて(少しだけ舌を見せる)」
閻魔大王「おい、もっとちゃんと見せんか」
私「はぁ(舌を突き出す私)」
閻魔大王「ふむ、ふむ、ふ~ん。なんか、どぅもウソではなさそうだば、つまらん奴だ」
私「でしょ」
閻魔大王「さぞや、つまらん人生だったろうな、周りの連中はうんざりしてたはずだ」
私「。。。」
閻魔大王「ま、いいや、許す」
私「は、ありがとうございます。では、入場記録を消していただいて(PASMOを差し出す)」
閻魔大王「どれどれ、ふ~む。ん?ん~~。こりゃいかん、こりゃダメだ」
私「え?どして?」
閻魔大王「どうもこうも、お前、残高が残ってない」
私「はぁ?でも、もう出るだけなんで。残高は要らないっしょ」
閻魔大王「お前、そんなことも知らんのか。A5の出口に行くにはだな、もう一度、あの三途の川(通路)を渡らんといかんだろ」
私「あ、はぃ」
閻魔大王「あれを渡るにはだな、六文銭が必要なんよ。でも、もうお前の電子マネーには残高がない。はい、ざ~んね~~ん」
私「そ、そんなご無体(むたい)な。じゃ、現金でお支払いします」
閻魔大王「あ、半年前から現金は取り扱わないことになった。キャッシュレスとかなんとか、いうらしいぞ」
私「う、う~、そりゃ、困る。じゃ、とりあえず大王様がお持ちの電子マネーと私の現金を交換して、私が電子マネーで払うってのはどうでしょう?」
閻魔大王「ふむ、それもできない相談なんよ。地獄界では、3か月前から、現金は発行も流通も停止になった。「地獄の沙汰も金次第」とかいって賄賂を受け取ってたのがバレちゃってな。実に残念だ」
私「ん~~~。それは困る。なんとか、大王さまの広いお心で、六文銭を免除というわけにはいかんでしょうか」
閻魔大王「あ、それはムリ。六文銭の取極めは、地獄、極楽、三途の3者合意でな。俺一人の力ではなんともならんのよ」
私「いや、そこをなんとか」
閻魔大王「しつこい奴だな。そもそも、これほど3界の基礎知識に乏しい奴に、極楽なんて無理よ。え~と、次の地獄行きは5分後に地下3階から。はい、急いで、急いで」
私「。。。。」
(イラスト:鵜殿かりほ)