金融経済イニシアティブ

子ども、生まれるの記(1)

2021.11.16

30年以上前の話である。

 

初産に当たり、妻が産院を決めてきた。当時の自宅から、車で20分ほどの大きな病院だ。

 

妻「ものは相談なんだけどね」

私「うん」

妻「この病院、立ち会い出産ができるらしいのよ」

私「ん?立ち会い?誰が?」

 

立ち会い出産?

妻「あなたよ」

私「う。う~む。。。でも、いったい、どんなもんかな」

 

妻「でしょ。で、念のため、聞いてきた」

私「ふむ」

妻「立ち会う人にも、丁寧に教えてくれるらしい」

私「ん?」

 

妻「事前に講習会があるんだって」

私「は?」

妻「講習会に2度参加するのが、立ち会いの条件らしい」

私「う。。。し、、しかし、平日は出られない」

 

妻「でしょ、でも講習会は毎週土曜だそうよ」

私「う~~む、でも、日程が合うかな」

妻「でしょ。だから、とりあえず6月*日と**日を仮予約だけしておいた」

 

私(むむ。相談じゃなく、はじめから決めていたのか。。。)

 

ラマーズ法

しかし、そこはそれ、「家庭安寧」を第一とする私だ。

抵抗はしない。

 

講習会の当日。

 

10組ほどの若い夫婦が、病院の会議室に敷き詰めたマットの上で、講義を聞く。

 

ラマーズ法というらしい。

上半身をリラックスさせ、下半身に力を込めて、一定のリズムで呼吸する。

 

講師「はい、では、練習してみましょう。」

私(ふむ)

講師「では、まず呼吸の練習。みなさんご一緒に、ヒッヒッフ~、ヒッヒッフ~」

私(ほ、ほぅ)

 

講師「はい、ご主人方もご一緒に。当日は奥様の手をとって、呼吸の誘導をして頂きますよ」

私(あ、そぅなの)「ヒッヒッフ~、ヒッヒッフ~」

 

講師「はい、では次に仰向けになって、上半身はリラックス、下半身に力を込めて」

私(ふむ)

 

講師「はい、ご主人方もご一緒に」

私(え、えっ~~、「私は出産しないんですけど」とつぶやく間も与えられずに)

上半身をラックスさせ、下半身に力を込める。

 

(な、なぜ私が?)

 

胎教

 

講習会では、バックグランドミュージックに、ゆったりとした心地よい音楽を流していた。

おそらく、胎教にいいのだろう。

 

さっそくCDを買ってきた。

喜多郎作曲「敦煌」(NHK特集「シルクロード」オリジナル・サウンドトラック盤)。

悠久の歴史を感じさせる、シンセサイザーの曲だ。

 

毎晩、わずかな時間、妻と聴くことにした。

 

しかし、土曜の夜はTV「オレたちひょうきん族」の時間だった。

 

ビートたけしや明石家さんまが活躍する超ドタバタのバラエティ番組。

妻はおなかを抱えて笑い、私はこのまま早産するのではないかとハラハラするほどだった。

 

敦煌vs.アミダばばあ(注)
(注)「オレたちひょうきん族」のなかで、明石家さんまが演じるキャラクター。

 

果たして、どちらの力がまさるのか?

 

結局、3年後の第二子誕生の際は、夫婦の間で胎教の「た」の字も話題にならなかった。

 

 

(イラスト:鵜殿かりほ)