子ども、生まれるの記(1)
2021.11.1630年以上前の話である。
初産に当たり、妻が産院を決めてきた。当時の自宅から、車で20分ほどの大きな病院だ。
妻「ものは相談なんだけどね」
私「うん」
妻「この病院、立ち会い出産ができるらしいのよ」
私「ん?立ち会い?誰が?」
立ち会い出産?
妻「あなたよ」
私「う。う~む。。。でも、いったい、どんなもんかな」
妻「でしょ。で、念のため、聞いてきた」
私「ふむ」
妻「立ち会う人にも、丁寧に教えてくれるらしい」
私「ん?」
妻「事前に講習会があるんだって」
私「は?」
妻「講習会に2度参加するのが、立ち会いの条件らしい」
私「う。。。し、、しかし、平日は出られない」
妻「でしょ、でも講習会は毎週土曜だそうよ」
私「う~~む、でも、日程が合うかな」
妻「でしょ。だから、とりあえず6月*日と**日を仮予約だけしておいた」
私(むむ。相談じゃなく、はじめから決めていたのか。。。)
ラマーズ法
しかし、そこはそれ、「家庭安寧」を第一とする私だ。
抵抗はしない。
講習会の当日。
10組ほどの若い夫婦が、病院の会議室に敷き詰めたマットの上で、講義を聞く。
ラマーズ法というらしい。
上半身をリラックスさせ、下半身に力を込めて、一定のリズムで呼吸する。
講師「はい、では、練習してみましょう。」
私(ふむ)
講師「では、まず呼吸の練習。みなさんご一緒に、ヒッヒッフ~、ヒッヒッフ~」
私(ほ、ほぅ)
講師「はい、ご主人方もご一緒に。当日は奥様の手をとって、呼吸の誘導をして頂きますよ」
私(あ、そぅなの)「ヒッヒッフ~、ヒッヒッフ~」
講師「はい、では次に仰向けになって、上半身はリラックス、下半身に力を込めて」
私(ふむ)
講師「はい、ご主人方もご一緒に」
私(え、えっ~~、「私は出産しないんですけど」とつぶやく間も与えられずに)
上半身をラックスさせ、下半身に力を込める。
(な、なぜ私が?)
胎教
講習会では、バックグランドミュージックに、ゆったりとした心地よい音楽を流していた。
おそらく、胎教にいいのだろう。
さっそくCDを買ってきた。
喜多郎作曲「敦煌」(NHK特集「シルクロード」オリジナル・サウンドトラック盤)。
悠久の歴史を感じさせる、シンセサイザーの曲だ。
毎晩、わずかな時間、妻と聴くことにした。
しかし、土曜の夜はTV「オレたちひょうきん族」の時間だった。
ビートたけしや明石家さんまが活躍する超ドタバタのバラエティ番組。
妻はおなかを抱えて笑い、私はこのまま早産するのではないかとハラハラするほどだった。
敦煌vs.アミダばばあ(注)。
(注)「オレたちひょうきん族」のなかで、明石家さんまが演じるキャラクター。
果たして、どちらの力がまさるのか?
結局、3年後の第二子誕生の際は、夫婦の間で胎教の「た」の字も話題にならなかった。
(イラスト:鵜殿かりほ)