踊る言霊(ことだま)
2022.09.01言葉は難しい。
コミュニケーションの最大の武器だが、意図を言葉で伝えるのは案外難しい。
ウルトラC
大学で経済学を教えている友人の話。
(学生への講義)
「多額の財政赤字が続くと、国債金利はどうしても上昇しやすい。だが、ウルトラCがある。中央銀行に国債を引き受けさせることだ。しかし、これは大きなリスクを伴う。次回はその話をしよう」
講義を終え、片付けをしていると、一人の学生がやってきた。
学生「先生、よぅ分からんかったんですが」
友人「ん?どんな質問かな?」
学生「さきほどおっしゃってた「ウルトラC」ってやつ、あれはなんでっか?」
友人「へ?」
時代はG難度、H難度である。
「ウルトラC」といわれても、なんのことやら分からない。
今年の漢字
オリンピックで思い出した。
年末の風物詩に「今年の世相を表す漢字一文字」というイベントがある。
公募で選ばれた漢字を、名刹の住職が揮毫し、公表される。
過去10年、選ばれた漢字は次のとおりだ。
実に、過去10回のうち3回が「金」だ。
いずれもオリンピックのあった年である(2012年、16年、21年)。
これが世相を反映?
激動の政治、社会、経済の中にあって、オリンピックが3回??
う~~ん。
応募者の視野が狭いといった話ではない。
もともと、漢字一文字で世相や社会を語ろうとすること自体に無理がある。
言葉を大事にするはずのメディアが、ニュース価値ありとして毎年報道するのも、いかがなものか。
ならば、これはどうだ。
「今年の世界の動向を、平仮名一文字で表せ」
結果発表。
「げ」(げ!)
来年は「え」(え?)
再来年は「げ」
次の年は「え」、。。。
目くばり
20年以上前のこと。
以前勤めていた職場で、地方支店の幹部が地元企業の苦境を報告していた。
ある幹部「当分の間、管内企業の業績改善は見込めそうにない。地域金融機関にも貸し倒れが発生するかもしれない。慎重に目くばせしていきたい」
ん? 目くばせ?。。。。
「目くばせ」とは、なんとも怪しげだ。
「目くばり」の間違いか?
ユニバーサルバンキング
1980年代。
日本には、銀行業は銀行だけ、信託業は信託銀行だけ、証券業は証券会社だけという、厳しい業態規制があった。
欧州には、一つの総合金融機関が銀行業から信託業、証券業まで広く兼営する事例が出てきていた。「ユニバーサルバンキング」という。
日本の銀行界も、ユニバーサルバンキング解禁の要望を主張し始めていた。
ある日、金融規制をテーマとする会合の速記録が回ってきた。
「[行政当局の出席者] 経済の国際化が進む中で、いつまでも厳格な規制を続けるわけにはいかない。消費者のニーズにも応える必要がある。しかし、金融秩序は守らなければならない。どのようなユニバーサルバイキングが望ましいか。議論を尽くしてほしい」
ん?ユニバーサルバイキング?。。。。
「ユニバーサルバイキング」なら、議論を尽くすまでもない。
各国料理の数が多いほど、望ましいに決まっているが。。。
整列乗車
10年前、妻と3泊4日の旅にでかけた。福岡に2泊し、2晩続けてソフトバンクホークスの試合を観戦。その後、湯布院で温泉に浸かる計画だった。
特急「ゆふいんの森」を予約したつもりだったが、手違いで通常の特急列車の自由席に乗ることになった。
席を確保するため、博多駅に早めに着き、プラットホームで待つ。先頭だった。
やがてアナウンスがあり、折り返しの列車が到着するという。
そうか、折り返しの列車か。
自宅近くの駅では、こうした場合「整列乗車」のケースがあるな。整列乗車では、すべての乗客を降ろしたあと、いったんドアが閉まり、再びドアが開いたところで乗り込むことになる。
気になったので、近くにいた駅員の方に尋ねてみた。
私「すんません、これから来る折り返しの列車は、すぐに乗っていいんでしょうか?」
駅員「あ、え~と、、、、ドアが開いてからにしてください!」
私「う」
いかにせっかちな私でも、ドアが開く前に乗り込むのは難しい。。。
(イラスト:鵜殿かりほ)