歳末風景 ~「一番ヒマな人」になるのも、楽じゃない
2022.12.01「年末」といえば、思い浮かぶのは年末ジャンボ宝くじの抽選風景だ。
抽選会に出かけたことはないが、テレビのニュースでなじみ深い。
気になるのは、一体どんな人が会場に向かうかだ。
なんといっても、大晦日の昼日中だ。
大掃除もあるだろうし、帰省の人もいるだろう。
会場に出向いたからといって、買った宝くじの当選確率が上がるわけではない。
早く当選番号を知ったところで、結果が変わるわけでもない。
抽選が正しく行なわれていることを、監視したいのか?
だが、最近は機械に仕掛けられたボーガンが的に向かって矢を放つだけだ。それ以上でも、以下でもない。
この忙しい日に、一体誰が?
世界で一番ヒマな人?
私の結論はこうである。
この抽選会に集まるのは、「世界で一番ヒマな人」だろう。
心も身体も余裕のある人たちだ。
社会人をやめたら、いつかこの仲間に入りたい、、、と思っていた。
しかし、、、、最近になって、私の思い違いであることを知った。
抽選会はニュースで報じられる場面のほかに、特別のアトラクションがあるという。
昨年は、東京オペラシティのコンサートホールで有力オーケストラの管弦楽があったようだ。
抽選会場に入るには、事前に入場整理券を入手した上で、抽選に当たらなければならないという。
抽選は宝くじだけではなかった。
「世界で1番ヒマな人」になるのも、楽ではない。
旅へ
年末。
下の子ども(長女)がまだ乳児のころ。
妻から、上の子どもを連れて、一日、自宅から退去するよう命じられた。
大掃除の邪魔だという。
ふ~む。
ありがたいっちゃ、ありがたい、、が。
困った。。。
長男はまだ3歳だ。
終日出かける場所もなければ、やることもない。
どぅする?
考えた挙句、JRの東京湾フリー切符を買うことにした(当時は、そんな割引乗車券があった)。
1.バスで最寄り駅に出る。
2.快速総武線から蘇我駅で内房線に乗り継ぐ。
3.浜金谷駅で下車する。
4.東京湾フェリーで東京湾を横断する。
5.久里浜港に着いたら、バスでJR久里浜駅に出る。
6.横須賀線に乗って、東京駅へ。
7.快速総武線に乗り変える。
8.最寄り駅からバスで自宅に戻る。
書きだせば結構長いが、それでも精々5~6時間の行程だろう。
まだ足りない。
一つひとつに、よほど時間をかけなければ。。。
そんなこんなで、出発進行!
電車好きの長男は、外を眺めては大はしゃぎしている。
だが、大はしゃぎしているだけでは、時間は稼げないのだょ。
浜金谷のレストランで、たっぷり時間をかけて昼食をとる。
長男「お父さん、そろそろ船に乗ろうよ」
私「いやいや、人生は、だな」
長男「ん??」
私「人生は、だな。。先を急いじゃいかんのだよ」
長男「??」
それやこれやで、もたもたとフェリーに乗る。
久里浜港で、お土産屋さんに立ち寄る。その後、もたもたとバスに乗る。
JR久里浜駅に着いたら、お土産さんに立ち寄る。その後、もたもたと横須賀線に乗る。
ん~~。
東京駅で乗り換えたころから、大騒ぎしていた長男はぐっすり寝込んでしまった。
最後はおぶってバスに。
重てぇ。。。
ようやく、自宅に辿り着く。ふ~っ。
*****
翌年。
妻から二人に再び退去命令が出る。
前回に味を占めた私たちは、東京メトロ、都営地下鉄全線に乗る計画を立てる。
車中で幼稚園児にルートを考えさせれば、時間がかかるので丁度よい。
始点から終点までとはいかないが、銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、千代田線、有楽町線、半蔵門線、南北線、都営浅草線、都営三田線、都営新宿線、都営12号線(のちの大江戸線)を少しずつ乗り継ぐ。
帰宅途中、長男は再び寝込んでしまった。
こやつ、また重くなった。。。
帰宅後。
長男は口から泡を吹きながら、一日の出来事を妻に報告している。
妻は楽しそうに聞いている。
くたびれ果てた私は、布団に潜り込むばかりだった。
*****
翌年。
退去命令の対象が一人増え、2歳児(長女)も仲間に加わった。
ふ~っ。
*****
今から思えば、私と子どもたちだけの貴重な時間だった。
楽しかった。
私のために妻が周到に配慮してくれたとすれば、たいしたものだった。
しかし、真実は、心の底から、掃除の邪魔と思っていたようだ。
(イラスト:鵜殿かりほ)