金融経済イニシアティブ

墓参り

2024.10.01

私はこうみえても、信仰心が薄い。
墓参りも滞りがちだ。

 

父は40年前、母は20年前に他界している。

彼岸が近づく度に、妻から「墓参りはどうするつもり?」と尋ねられるが、「まぁ、両親も忙しいだろうから、出かけていっても墓の中にいないかもしれんな」などと言って、逃げ回っている。

 

菩提寺

 

菩提寺は、東京・高輪にある。

江戸末期の切絵図にも載っているぐらいだから、由緒正しき寺なのだろう。

 

住職は、以前は大学病院の医者だったが、その父である前住職が亡くなり、転身した。
法話にしばしば医療の話が紛れ込むのは、これが理由である。

 

ある年、寺の敷地の一角が業者に引き渡され、整地して墓地として売りに出された。

 

おかげで、檀家の墓の集まる墓地と、宗派にこだわらない墓地とが隣接することになった。

 

もっとも、武蔵野台地の端で谷も切れ込んでいるため、両者は坂の上下に位置している。

 

友人に出会う

 

数年前、久方ぶりに墓参りに出掛けた。いつ以来か、自問してしまう。

 

到着後、車を降りたところで、背後から声をかけられた。

振り返ると、日ごろ親しくしている通信社の友人である。

 

私「ん?、どぅして、あなたがここに?」

友人「えぇ、ここの墓地を買ったんで」

私「あ、そぅなんだ、こりゃ奇遇ですね」

 

友人「いや、まったく。で、山本さんは、なぜここに?」

私「あ、一応、この寺の檀家なんだ」

友人「へぇ、高輪の寺と言えば、由緒正しきご家系となりますね」

私「いやいや、由緒も何も、滅多に墓参りに来ない不肖の檀家である」

 

友人「それにしても、奇遇でした」

私「いや、ほんとに。。。そのうち、またいろいろと意見交換を」

友人「こちらこそ」

 

もしかして

 

その後、ふたたび墓参りに出掛けた。

記憶を辿れば、前回訪れたのは1年前だった。

まことに信仰心が薄い。

 

と、車を降りたところで、また声を掛けられた。

 

友人「山本さん、また、お会いしましたね」

私「あ、お久しぶり。なんでここに?またお墓参り?」

友人「そりゃ、そうですよ」

私「たしかに、お墓の前で聞く質問ではなかったな。それにしても、奇遇だねぇ」

友人「いや、まったく」

 

私「ん? ・・・待てよ・・」

 

友人「は?」

私「僕が滅多に来ないのに、あなたに続けて会うとは、、、もしかして、あなたはしょっちゅう墓参りに来てる、とか?」

 

友人「え、分かりました?実は、そうなんです。月に1度ぐらいは来てますかね」

私「えぇっ!」

友人「墓参りするようになってから、色々と良いことがあってですね、やはりご先祖様は大切にせねばならんと思っているわけです」

 

私「ほぅ、そんなもんかね」

友人「そんなもんですよ。山本さんもご先祖様は大事にした方がいいですよ」

 

私「う~ん、考えてみたこともなかった」

友人「そんなもんですよ」

私「ま、こちらは三男坊でもあるしな、、、」

友人「そんなこと言ってないで、どうぞごゆっくり墓参りを」

 

私「うん、じゃぁまた」

友人「では、失礼します」

 

私「あ、ちょっと待って」

友人「は?」

 

私「ひとつ、ものは相談なんだが」

友人「はい、なんでしょ?」

 

私「こんどまた墓参りに来られたときは、ついでに、わが家の墓にもお参りしておいてもらえないか?」

 

友人「ん?? い、いやです」

 

(イラスト:鵜殿かりほ)