小市民、走る ~出版、騒動記
2024.11.019月中旬、「異次元緩和の罪と罰」(講談社現代新書)を上梓した。
定価1210円、電子書籍1155円(いずれも消費税込み)の新書である。
齢(よわい)70にして、初の出版となる。
感慨深い。発刊後、どれだけ売れるか、気になって仕方がない。
さっそく、妻と近所の書店にパトロールに出掛ける。
書店を覗いたからといって、売れ行きが変わるわけではないが、気は心である。
小芝居を演じ損ねる
近所には、比較的大きな本屋が2軒ある。
2軒目の本屋の書棚に近づこうとすると、先客がちょうど拙著を手にしたところだった。
あわてて、その場を通り過ぎる。妻も、逃げる。
遠くに身を隠し、様子を探ると、先客は本をあっさり書棚に戻し、帰っていった。
妻「逃げずに、小芝居(こしばい)を打てばよかったのに、、、」
私「え、どんな?」
妻「『お、やっと見つけたぞ、これが今話題の本か。あ~よかった、やっと手に入れたぞ』とか。」
私「なんか、舌を噛みそうだな」
妻「そこは、日ごろから練習して」
私「しかし、だ。本の見開きには著者の顔写真が載ってるぞ。買った後、すぐに騙されたと気づく」
妻「考え過ぎだと思うけどね」
私「んじゃ、こんなんどうだ」
妻「どんな?」
私「ゆっくり近づいていって『サインしましょうか』と言ってみる」
妻「今度は、向こうが逃げる」
私「そうだろうな。難しいな」
妻「難しい。。。」
行動も会話も、まことに小市民的である。
売れ行き好調
ふたを開けてみると、売れ行きは好調だった
発刊前から予約がかなり入ったという。
早速、重版も決まった。
ネット販売は、早い段階で「発送、2週間以上待ち」の表示となった。
しばらくしてネット販売のサイトを再び確認すると、定価1210円の拙著が中古品(実際は新品?)3980円で出品されていた。
「2週間以上待ち」の間隙を縫って、細かい利ざやを稼ぐビジネスのようだ。
早速、まだ本を手にしていない後輩に告げることにした。
「市場価値3980円の本が、いまなら、本屋で1210円で買えるぞ。お得なうちに、お早いお買い上げを!」
本の内容にも通じるが、やはり、市場機能は大切である。
サイン
しばらくすると、私にサインを求めてくる友人がいた。
要は、からかいの類である。
本来、私の悪筆では、単なる汚れだ。
ブックオフにもっていけば、買い叩かれる。
しかし、そのようなネガティブな言説は控え、時間があれば、署名することにした。
私「『○○さんへ、著者名、日付』」と。
友人「折角だから、言葉でも添えてみるのはどうかな」
私「う~~ん、考えたこともなかった」
友人「なんか、胸に響く言葉を」
私「う~~ん、、、、、、じゃ、『佳人(美人)薄命』にするか」
友人「は?なんだ、それ?」
私「ふむ、それは受け取った皆が、それぞれ胸に手を当てて考えてみる」
友人「どういうこと?」
私「だから、一人ひとりが、言葉の背後に潜む深い意味に思いをめぐらす」
友人「ん?なにか深い意味でも?」
私「将来、私の葬式で、みながそれぞれの解釈を述べあい、私の人生がどれほど深い思索と苦悩に満ちたものだったかを語り明かして、故人を偲ぶことになる」
友人「しょうもなぁ!」
(イラスト:鵜殿かりほ)