金融経済イニシアティブ

効果を大きくみせる法 ~ちょっと、ややこしい話

2024.12.02

12月は、人間ドックの受診月である。

初回が年末近くだったために、例年、この時期にドックに入る。

 

その、ひと月ほど前にはミニダイエットが始まる。

妻に「甘いものは控える、夕飯は少なめにする」と宣言する。

だが、毎年のことなので、事もなく聞き流される。

 

 

健康飲料

 

先日、電車の中で気になる広告を見つけた。

健康飲料(特定保健用食品、緑茶系)の広告である。

 

体脂肪を減らすのを助ける、がうたい文句だ。

横には、効果のほどを示すグラフもある。

 

私はこの手の広告に弱い。

早速コンビニで購入した。

 

グラフは、ペットボトルのラベルにも印刷されていた。

こんな感じだ。

 

腹部全脂肪面積変化量の推移

 

飲料に配合された成分が、脂肪分解酵素を活性化し、体脂肪を減らすのを助ける――のだそうだ。

成分は、もともとタマネギなどに多く含まれているものらしい。

 

グラフは、「健康飲料(被験飲料)」と「対照飲料」を飲み続けた場合を比較し、腹部全脂肪面積に10cm*cm以上の差が出たことを示している。

 

腹部全脂肪面積にして、10cm*cm以上!

なかなか刺激的ではないか。

グラフの##の脚注に「対照飲料と比較して有意差あり」ともある。

「いいね」ボタンを8回ほど押したくなる気分だ。

 

「一般的な緑茶」は一般的なのか?

 

しかし、、、いや、待てよ。

 

「対照飲料」を示す点線のグラフは、腹部全脂肪面積が増えてしまっているではないか。

対照飲料を飲んだら体脂肪が増えてしまう?

んじゃ、飲まなきゃいいじゃないか。

そうである以上、比較することに意味があるのだろうか。。。

 

そもそも「対照飲料」とは何だ?

 

メーカーのホームページによれば、対照飲料は「一般的な緑茶*」だそうである。

グラフは健康飲料と対照飲料を「1日1本継続使用し、効果を比較した結果」と書かれている。

 

ふむふむ。

なるほど、一般的な緑茶か。

ん? とすると、緑茶を飲み続けると、体脂肪が増えしまうってこと?

 

ん~~、なんか私の常識とは違うな。

 

そこで、「一般的な緑茶*」の「*」を確認してみる。

なぜか、文字が小さい。

「当該成分を含まない緑茶」

 

ふ~む、「当該成分を含まない緑茶」か。。。

おや? とすると、、、このお茶を本当に「一般的な緑茶」と呼んでいいのか?

あるいは、この記述ぶりからすると、一般的な緑茶にはこの成分が含まれていないことになるが、そうなのか?

 

 

乗りかかった船なので、インターネットで「緑茶」を検索してみる。

結論――緑茶にはもともとこの成分が含まれているが、種類によって、成分の含有量に差がある、ということらしい。

 

しかし、、、なぁ。

堂々と「一般的な緑茶」をうたっているわけだしなぁ、、、。

成分を含まない緑茶(対照飲料)を一般的な緑茶といえるかどうか、いまだによく分からない。

 

「推察される」?

 

仕方なく、グラフが依拠した論文に当たってみる。

国会図書館に出かけ、閲覧。

概略、次のようなことが書かれていた。

 

①対照飲料の摂取後、腹部全脂肪面積に有意な増加が認められたが、先行研究でも同様の結果が認められている。

②先行研究は、この変化を、試験を実施した秋から冬という季節的な要因によると考察している。

③今回の試験もほぼ同じ季節に実施しており、(腹部全脂肪面積の増加は)やはり季節的な理由によるものと推察される。

 

う~~ん、「推察される」かぁ。。。

だが、対照飲料を飲んだら、体脂肪が増えてしまうというのは、重大な事実だよな。試験のために特別に用意した対照飲料である以上、特別な効果を引き起こした可能性も拭えない。追試験で、その可能性を棄却しておかなくてよいだろうか。

 

例えば、0週以降、対照飲料も健康飲料も飲まずに普段の生活を12週間続けた人々の測定を行い、これと対照飲料群とを比較してみる。あるいは、別の季節に同じ試験をして対象飲料群の腹部全脂肪面積がどう変わるかを確認する、といった検証である。

 

しかし、これらの追試験は行われなかったようだ。

 

研究者にとっては、披験飲料と対照飲料の比較は成分の効果を知るうえで重要なのだろうが、日常生活を続ける私にとっては、対照飲料と比較することの意味合いは、依然、謎のままである。

 

私なりの解釈をふまえたグラフ

 

ちなみに、原典となった論文には、飲料を飲み始める前の時点(0週時)の測定結果も示されている。

これと、健康飲料(被験飲料)を飲用し続けた場合の8週目、12週目の測定結果を比較した結果、両者の間でも有意な差が認められるとしている。

 

トクホに認定されている以上、効果があるのは確かなのだろう。

よかった。

 

だが、論文にあるのは、あくまで0週と、8週目、12週目の測定結果だけだ。0週と8週目の値を結んだ直線が示唆するように、1週目から効果がでてくるかどうかは明らかでない。

 

グラフは研究者によるものでなく、メーカーによる作図のようだ。

 

以上を踏まえ、私にとって確実に意味があり、論文にも忠実で、合点のいくグラフは、次のようなものとなる。

 

腹部全脂肪面積変化量の推移(その2)

 

 

ふむふむ。

一定の効果があることは分かった。

しかし、当初の広告の印象とはずいぶん違うな。

 

それにしても、ややこしく、読み解くのに2週間もかかってしまった。

それこそが作図者の意図なのかもしれない。

 

 

みなさまにも、ややこしい話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

(イラスト:鵜殿かりほ)