金融経済イニシアティブ

車内放送は案外おもしろい

2025.04.01

電車の車内放送は、昔は、鼻にかかった独特の声音だった。

「つぎは~、とぉーきょ~、とぉーきょ~」というやつだ。

 

この独特の語り口は、いつのまにか車内放送から消えた。

技の伝承は、いまや中川家(漫才)の双肩にかかる。

 

ニバサミ

以前、通勤電車が駅と駅の間で停まってしまったことがある。

しばらくして車内放送があった。

「前を走る列車でニバサミがありましたので、点検をしております。ご迷惑をおかけしますが、しばらくお待ちください」

 

ん?

ニバサミ?

 

ニバサミって何よ?

思わず近くの人に目を向けるが、みな無言で運転再開を待つだけである。

え?もしかして、ニバサミを知らないのは私だけ?

 

あるいは、私の聞き間違いか?

私の知る、よく似た単語はカニバサミぐらいだ。

「蟹挟み」といえば、半世紀近く前、モハメッドアリ対アントニオ猪木の伝説の一戦で、猪木が繰り出した必殺技である。

 

しかし、乗客がドアに向かって「蟹ばさみ」を掛けたとも考えにくい。

ん~~、いったい何だろ?

バサミの漢字は、カニバサミ同様、やはり「挟み」なのか?

はさみ、挟み、ニバサミ、、、と?

 

あ、そうか。

分かったぞ!

「荷挟み」か!

乗客の荷物が挟まり、ドアが故障したという話か。

 

なるほどなぁ。

近くの乗客に教えたい。

しかし、みな、ニバサミを初めから知っているようでもあり、やめておこう。

 

ドアにはもたれかからないように

数年前、東海地方に出張した。

 

ローカル線に乗ると、走行中に車内放送があった。

「お客様に申し上げます。車両のドアにもたれかからないようお願いいたします。」

 

ん?

ドアにもたれかからないように?

そりゃ、そうだろ。何かの拍子にドアが開くようなことがあれば、転落事故が起きかねない。

 

私はこのような放送を他の地域で聞いたことがない。

だが、帰りの車内でも同じ車内放送が流れていた。

もしかしたら、この地域にはドアにもたれかかる風習や伝統があるのだろうか?

 

座席を回転させないように!

先日、行楽地に向かう特急列車の中で車内放送があった。

 

「本日は予約のお客様で満席でございます。空席に荷物などを置かないようにお願いします。
また、3名でご旅行のお客様に申し上げます。前列の座席を回転させますと、あとからお乗りになるお客様が進行方向とは逆向きに座ることになりますので、お控えください。」

 

そりゃそうだ!

、、っていうか、控えなければならない理由は、そこではないだろ。

 

仲間はずれの一人が他の乗客と対面で長時間過ごさなければならないのが、非人道的だからである。

 

想像してみてほしい。

出張中の私。

ビジネススーツにカバンといういで立ちで、予約した指定席を探す。

ようやく席を見つけたが、なんと、私の座席は回転されている。

 

近づくと、3人の女子高生が対面で座っている。

おぉ!

 

席に座り、彼女たちの話にそば耳を立てる。

あまりにくだらない話なので、口を挟む。

しばらくすると、3人の会話に私も楽しく加わっている――って、ことは、絶対にないな。。。

 

では、3人が妙齢を過ぎた女性たちだったらどうか。

席で仕事の書類を読もうとする私だが、ご婦人たちがやたらに話しかけてくる。

みかんやおやつも分けてくれる。

いつの間にか、私も3人の会話に楽しく加わっている――いや、いや、おやつをもらっても、困る。

 

では、3人がお年寄りの男性だったらどうか。

いや、いや、考えるのもやめておこう。

 

(イラスト:鵜殿かりほ)